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黒い服を纏った詩人、ジョニー・キャッシュの残した言葉

2019.09.12

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2003年9月12日。
 ジョニー・キャッシュは、糖尿病による合併症のため、テネシー州ナッシュヴィルの地で71年の生涯に幕を閉じた。
 ボブ・ディランをはじめとして、あらゆるジャンルのミュージシャンに愛された彼は、アウトローのイメージが強いが、デビュー当初から詩人であった。


しだれ柳に
泣き方を教えたのは
この俺さ
真っ青な空を
どうやって覆うか
雲に見せてやったのさ


 1958年に発表された「ビッグ・リバー」の一節である。主人公の流した涙がビッグ・リバー(大河)になるという歌なのだが、彼はまさに詩的な不良であった。主人公はこの大河を渡り、各地を旅することになるのだが、この構想が後に、ディランの「ブルーにこんがらがって」につながっていると言われている。



毎日でも虹色の服を着たいさ
すべてはうまくいくと言ってやりたい
だが、俺は背中に少しばかり
暗闇を背負っていくつもりだ
世界が明るくなるまで
俺は黒服の男


 1971年に発表された「マン・イン・ブラック」は、ジョニー・キャッシュの代名詞となった曲である。実際、ステージ上でも、カメラの前でも、彼は黒い服を身にまとっていた。



 2006年。彼の死から、3年。リック・ルービンとのプロジェクト「アメリカン・レコーディングス」の5作目「ハンドレッド・ハイウェイズ」が発売され、ビルボード誌のアルバム・チャート、初登場1位を記録する。誰もが、この遺作が、彼の最後の作品だと思っていた。
 だが、2010年、没後2枚目のアルバム「エイント・ノー・グレイヴ」が発表された。肺も患っていたジョニーの歌声は、5作目の「ハンドレッド・ハイウェイズ」より更に細り、痛々しく響く。だが彼はその声を振り絞って、こう歌ったのである。


この肉体を
休める墓など
ありはしない。。。


「レコーディングすることだけが、生き続けるためのモチベイションなのだと、ジョニーは言っていた」と、プロデューサーのリック・ルービンは語っている。愛妻ジューンを亡くしたジョニー・キャッシュは、歌い続けることでその生を維持していたのである。

「彼は死に対して、どんな恐れも抱いていなかったし、痛みとも付き合っていた。すべてを受け入れていたのさ。死が近づいた時も、彼は静けさの中にいた。それが当たり前のこと、だというようにね」



すべてはこの男から始まった~ジョニー・キャッシュ特集

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