『マドンナのスーザンを探して』(Desperately Seeking Susan/1985)
1982年のデビュー以来、マドンナは常にポップ・ミュージック界のトップランナーとして、数々の話題を提供しながら伝説化してきた。例えばチャートやセールス上の数字を見るだけでもその凄さが分かる。歴代1位となる38曲のトップ10ヒット(うち12曲がナンバーワン)、同じく歴代7位となる21枚のトップ10アルバム(うち8枚がナンバーワン)を放ち、世界での売上総数は何と3億枚以上。
ワールドツアーを行えば、そのエンターテインメント性溢れるステージで莫大な興行収入を叩き出す。経済誌フォーブスが毎年発表するセレブランキングは常連。映画出演や出版活動にも積極的で、年齢を重ねてもファッションや音楽性に最先端の動向を取り入れることを忘れない。“クイーン・オブ・ポップ”として彼女をリスペクトする女性アーティストは数知れず。
どんなスターにも無名の時代がある。マドンナも例外ではない。母親を幼い頃に亡くした彼女は、いつしか独創的で野心の強い女の子になっていた。そして大学を中退してデトロイトの実家を飛び出し、グレイハウンドバスに乗ってニューヨークへ渡る。手元にはわずか35ドル。タクシーに乗って「一番華やかな場所へ行って!」と運転手に告げ、人々が行き交うタイムズスクエアで「神よりも有名になる!」と人知れず誓ったエピソードは有名だ。
しかし、現実は生きるためにアルバイトで食いつなぐ日々。ヌードモデルや成人映画に出たこともある。強気な性格はダンスや恋を失う羽目にもなった。バンド活動でギターを弾いているうちに、歌手になることがスターへの近道だと自覚した。
ニューヨークの“アンダーグラウンド”や“クラブカルチャー”の体臭を嗅ぎ分ける能力や感覚を持っていた彼女は、どんな曲やパフォーマンスがヒップな連中に支持されるかはっきりと見えていたのだろう。恩知らずな人付き合いもあったようだが、とにかく1982年10月、24歳のマドンナはシングル「Everybody」で念願のデビューを果たした。
「Holiday」「Lucky Star」「Borderline」といったヒット曲でダンスフロアを揺るがした1983年、最初のアルバム『Madonna』をリリース。MTVの影響も好作用してチャートを駆け上がった。このアルバムこそが“クイーン・オブ・ポップ”の原点であり、今も色褪せない魅力が詰まった名盤として評価が高い。
そんなマドンナが社会現象化したのは、1984年末の「Like a Virgin」だった。時代のセックスシンボル、ファッションアイコンとなった彼女は、この曲で本物のスターになったのだ……。
『マドンナのスーザンを探して』(Desperately Seeking Susan)は、そんな時期(1985年3月)に公開されたマドンナ初主演作。実際はロザンナ・アークエットが主演なので助演というべきだろうが、この映画はマドンナ抜きにして語れないのは事実。さらに今では強烈なエイティーズ臭が漂う“貴重な記録”としても楽しめる。ちなみに映画公開後の4月、マドンナは初の北米ツアーに繰り出し、6月にはショーン・ペンと結婚。翌年には夫婦で『上海サプライズ』で共演した。
監督のスーザン・シーデルマンをはじめ、プロデューサーや脚本家など、主要スタッフがすべて女性というのもいい。音楽の使い方も秀逸で、主題歌的なマドンナの「Into the Groove」のほか、イギー・ポップの「Lust For Life」も聴こえてくる(1996年の『トレインスポッティング』で有名になるあの曲)。
今回改めて観て“発見”したのは、ジョン・ルーリーとリチャード・エドソンの出演。二人は隣人のサックス吹き、新聞を買う男としてほんの一瞬の出番。そう、ジム・ジャームッシュ監督『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)のあの二人組だ。どちらも同じニューヨークを舞台にした映画。粋な演出に思わずニヤついた。
物語は、平凡な主婦ロバータ(ロザンナ・アークエット)が新聞の消息欄をきっかけに、スーザン(マドンナ)の騒動に巻き込まれて本当の自分を見つけていくという内容。その過程が面白い。マドンナの80’sファッションやセクシーな下着姿も必見だ。
予告編
『マドンナのスーザンを探して』
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*日本公開時チラシ
*参考/『マドンナのスーザンを探して』パンフレット
*このコラムは2017年11月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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