「“8マイル”は、デトロイトにあるシティと郊外を隔てているラインのこと──金持ちと貧乏人、肌の色──デトロイトっていう街が持つ人種のボーダーラインを象徴している。その両側を見て育って、いつもその狭間でどっちつかずの状態に陥ってる自分のことを、俺はどこかで恥じていた。自分が住んでいる地域のこと、自分が白人であること……」
のちに、映画『8マイル』で自らが育ったデトロイトの街を描いたエミネム。
生まれてから一度も父親の顔を見ることなく育った彼は、幼い頃から極貧の生活を強いられ、友達もできず、自殺未遂まで経験したという、どん底の暮らしぶりだった。
そんな中ヒップホップにのめり込み、14歳で本格的にMCとしての活動を始めるも、ヒップホップの世界に入れば白人ラッパーは色眼鏡で見られてしまう。黒人ばかりの聴衆から受けるバッシングに対抗すべく、自らバトルMCとしての道を進んだ。
実力を身につけた後も、やはり白人であることが障壁となり、なかなかのし上がることができない。
そんな現状への不満、社会への憎悪、嫉妬、劣情──激しく渦巻くネガティブな感情を吐き出すために、エミネムは自分の中に「スリム・シェイディ」という別人格を宿らせた。
有史以来最悪のシリアル・キラー(連続殺人鬼)でありテロリスト、強姦魔であり、道化師である架空のキャラクターを生み出すことで、エミネムのラップは変化していった。耳を塞ぎたくなるような口汚い言葉に満ち溢れていながら、どこか人を食ったようなユーモラスさも漂う彼のラップは、中毒的に人々の心を魅了していく。
1997年に自主制作でリリースした「The Slim Shady EP」がローカル・ヒットすると、西海岸ヒップホップの名プロデューサー、ドクター・ドレーに見い出され、彼のレーベルと契約。
1999年に発表したメジャー・デビュー作『The Slim Shady LP』は、全世界で600万枚を超えるセールスを記録。遂にはグラミー賞最優秀ラップ・アルバムを受賞した。エミネムが27歳の時のことだった。
ロバート・ジョンソンがクロスロードで悪魔に魂を売り渡したように、エミネムは8マイルでスリム・シェイディに魂を売り渡した──悪魔の手を借りて一度自分自身を殺した彼は、その後スターダムへとのし上がっていった。
エミネム「My Name is…」 PV


名実ともにヒップホップ・シーンのスーパースターとなり、2013年にはシングル「Rap God」をリリースしたエミネム。しかし、最新アルバム『KAMIKAZE』収録曲「Fall」のMVのラストシーンでは、悪魔に魂を乗っ取られて“Rap Devil”に変化し、自らのCD『Revival』を彼自身の足で踏み潰す場面で締めくくられる。
エミネムは再び、悪魔に魂を売り渡したのだろうか。
エミネム「Rap God」 PV



*本コラムは2013年11月30日に初回公開された記事に加筆修正したものです。
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