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【インタビュー】EGO-WRAPPIN’──20周年記念ベスト・アルバムに刻まれた、鮮やかな冒険の足跡

2016.05.10

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今年結成20周年を迎えた、中納良恵と森雅樹の二人からなるユニット〈EGO-WRAPPIN’(エゴラッピン)〉。ジャズ、スウィング、ブルース、スカ、歌謡曲などオールドタイミーな音楽に影響を受けながらも、パンクやニューウェイヴのフィルターを通した独自なスタイルでポップ・ミュージックに昇華し、常に新鮮な驚きを与え続けてきた。また、ホーンセクションを擁した編成で披露する圧倒的なライブ・パフォーマンスは無二の個性を放ち、国内の大型フェスのみならず、海外公演も行い大きな反響を集めている。

先ごろリリースされたばかりの、3枚組のベスト&カヴァーアルバム『ROUTE 20 HIT THE ROAD』。活動初期から現在に至るまで発表してきた楽曲群からライブでの人気曲を中心に、引き出しの奥に大事にしまっていたようなレア曲や、ここ10年ほどで広がっていった多彩なスタイルが窺えるナンバーの数々、そして書き下ろしの最新曲までを収録。入門編としてもぴったりの内容となった。

「くちばしにチェリー」 LIVE

「GO ACTION」 LIVE

森雅樹「今回ベスト・アルバムを作るにあたって、これまでのエゴの曲から選ぶことになったんですけど、こればっかりは入れたい曲が多すぎて。〈くちばしにチェリー〉〈色彩のブルース〉〈GO ACTION〉あたりは外せないし、それ以外にも個人的に可愛いって思ってる曲がたくさんあるから。それを俯瞰的に見るのは難しかったですね。結果的に僕ら二人以外の意見にあやかるほうが多かった」

中納良恵「自分たちの意見を言いはじめたらキリがないしね。私も〈雨のdubism〉とか久々に聞いて『あ、ええ曲やな』って思いましたもん(笑)。いや、ライブでもしょっちゅう歌ってる曲なんですけど、レコーディングしたテイクを聴くのって全然違う行為で。自分の過去の作品とか出した後にあらためて聴かないから、当時のことやその時のテンションとか思い出したりしてオモロいなって」

「雨のdubism」 LIVE

「ちゃんとしたレコーディング・スタジオで録音したのって、東京に出てきた時が初めてでしたね。大阪で活動していた初期の頃は、公民館借りて録音したり、ビルの階段で録ったり、アイディアひねって録音してたもんな」

中納「天然リバーブ効かせてな。今となっては自由が利かへん状況も、当時はそれが当たり前やと思ってやってたから。だから別に苦労とか感じたことはなかったですね。プロデューサーとかはずっとおらんけど、その時々で助けてくれる人もおったし」

ここ最近では、EGO-WRAPPIN’として東京スカパラダイスオーケストラやBRAHMANらとコラボレーションを展開。また、中納良恵はソロ・アルバムを制作、森雅樹はドラマの劇伴を手がけるなど多面的な活動も見せている。

中納「自分のソロ・アルバムを作ったことで、エゴの制作において振り返ることは多々ありますね。それに最近ではエゴのレコーディングでも、私がピアノ弾いたり、森くんもベースやドラムを叩いてみたりと違う楽器やったりしだして。自分の中の探究心と向き合ってきたというか、その時点でやれることをやってただけなんですよね」

「admire」 MV

「今回のベスト盤に入れた新曲〈admire〉なんかは、ギターと歌を基調にしながらサウンドコラージュやスケッチにこだわった感じはあって。それも、よっちゃんがソロでやってたシンセの使い方や雰囲気なんかを意識しながら、実験的に入れてみたんです」

中納「そういう意味ではソロでやったことがフィードバックされてるとも言えるけど、同じコードでも弾く人によって響きが全然変わってくるし、そこから生まれてくるメロディも全然違う。そうなると必然的に出てくる言葉も違ってくる。それはやっぱり森くんと一緒やからこそ出てきた言葉やし、メロディやし。そういう部分が面白いところなんですよね」

EGO-WRAPPIN’はその時々の好奇心をダイレクトに表現へと反映してきたバンドでもある。彼らの代表曲のひとつである「色彩のブルース」(2000年発表)も、そういったミラクルが生んだ宝石のような1曲だ。

「色彩のブルース」 MV

中納「森くんが考えたコード進行からメロディと歌詞を考えていったんですけど、サビのメロディはどうしてもなかなか出てこなかった。それでいったん諦めて家で寝はじめたら、ふと浮かんできたんですよ。またムクッと起き上がって、すぐにテープに録って。その時点で情景は頭に浮かんでたんですけど、言葉はすっと出てはこなかったですね」

「当時にしても『愛してる』とか『がんばれ』みたいな歌が多い中で、〈鉛の指から流れるメロディー〉とか〈アルコールの川〉というフレーズが(中納から)出てくる感じがいいなって思いましたね」

中納「ちょっとモノクロの映画っぽくしたかったというのはあったかも。まあ、当時は少し背伸びしてたんだと思います。なんも知らんのに(笑)」

「曲としてもジャジーなコードとか4ビートを覚えたてみたいな(笑)。あの曲、コードの数もそんなに多くなくて、シンプルなんですよね」

中納「本格的にジャズをやってる人たちにしたら『なんや、こんなん』ってなってたと思うんですよ。だけど〈覚えたて〉だからこそ直球でアプローチできた部分はあったと思います。それに私たちもジャズをやろうっていって作った曲じゃないし、ブルースをやろうと思って作った曲でもないし。それがよかったのかもしれないですね」

『ROUTE 20 HIT THE ROAD』には「異邦人」(久保田早紀)、「Fever」(リトル・ウィリー・ジョン)などこれまでにライブでカヴァーしてきた楽曲に加え、イアン・デューリー、カーティス・メイフィールド、荒井由美、たまなど、彼らの音楽性のルーツを紐解くスタジオ録音によるカヴァー集も収録している。

「異邦人」 LIVE

「イアン・デューリーの曲をよっちゃんが歌うっていうのがいいんですよね。『EGO-WRAPPIN’ AND GOSSIP OF JAXX』というアルバムを作った時に、サポートメンバーにあえて〈GOSSIP OF JAXX〉っていうバンド名をつけたのも、イアン・デューリーの影響ですからね。これまでにも東京キネマ倶楽部で年末に開催している『Midnight Dejavu』や、野音の『Dance Dance Dance』でもカヴァー曲はやってきていて。マイティ・スパロウ〈I’ll Be Around〉とか、キャノンボール・アダレイ〈Work Song〉とか日本語詞で歌ってたんですけど、収録するにあたっては権利関係がちょっと難しかった。あまりにも許可が通らないから考え方を変えて、デヴィッド・ボウイとか今までのエゴには馴染みのない感じをカヴァーしてみようと」

中納「カーティスの〈Move On Up〉みたいなド定番もやれるようになったってのは変化としてあるかも。昔やったら、ちょっと天邪鬼なところもあったから取り上げなかったかもしれへんけど、そういう意味では丸くなったなって思います。お客さんの気持ちとかも考えたりするようになってきたんかな。『よっちゃんがこれ歌ってるの聞きたい』とか言われたらうれしいし、そしたら『ほな、歌おか?』って気分にもなったりして。〈異邦人〉なんか、そもそもカラオケの十八番なんですからね」

作品を重ねるごとに聴き手のツボを直撃するクリティカルヒットを放つ一方で、予想を鮮やかに裏切っては他の誰も触れようとしていない扉を次々に開けてきたEGO-WRAPPIN’。同時に彼らはステージを重ねるごとにライブ・バンドとしての表現の可能性を追い求めていきながら、目の前のオーディエンスの欲求もしっかりと受けとめ、いかにとことんまで楽しませるかというショーマンシップを大事に育んできた──そして20年目の今。革新性と大衆性とをガッチリ噛み合った現在のEGO-WRAPPIN’は、バンドとしてまさしく無双の状態にあると言っていいだろう。5月11日からは全国ツアーもスタート。夏には恒例となっている東京・大阪での野音ライブ、そして11月にはグループとして初の日本武道館ワンマンも開催される。まるでお祭りのように盛り上がる祝福ムードの中でも、当の本人たちはいたってマイペースではあるのだが。

中納「もちろん、ここまで続けてきたからには、EGO-WRAPPIN’をこれからも育ててやるというか。その意味では、20年っていうのは感慨深いですけど……まあ、結構いつもと変わらんというか」

「21年目、がんばりたいですね」

中納「たしかに! 21年目がんばりたいな(笑)」(中納)

「love scene」 LIVE


EGO-WRAPPIN'『ROUTE 20 HIT THE ROAD』

EGO-WRAPPIN’
『ROUTE 20 HIT THE ROAD』

(TOY’S FACTORY/NOFRAMES)

  • iTunes
  • Amazon


  • 野外フェスで数多く披露して来た楽曲を中心にしたDisc1。しっとりと聴き入る選曲のDisc2。2人の歩んだ音楽のルーツを感じさせる初のスタジオ録音カヴァー集のDisc3からなる3枚組ベスト・アルバム。

『ROUTE 20 HIT THE ROAD』 特設サイト
http://www.egowrappin.com/route20/


EGO-WRAPPIN’ AND GOSSIP OF JAXX live tour
『ROUTE 20 HIT THE ROAD』

5月11日(水)静岡・LiveHouse 浜松 窓枠
5月13日(金)神奈川・Yokohama Bay Hall
5月17日(火)鹿児島・CAPARVO HALL
5月20日(金)長野・NAGANO CLUB JUNK BOX
5月21日(土)石川・金沢EIGHT HALL
5月25日(水)北海・札幌PENNY LANE24
5月27日(金)青森・青森Quarter
5月28日(土)宮城・Rensa
5月30日(月)岩手・Club Change WAVE
6月4日(土)熊本・熊本B.9 V1
6月5日(日)香川・高松MONSTER
6月9日(木)広島・広島CLUB QUATTRO
6月10日(金)愛知・DIAMOND HALL
6月12日(日)山口・周南RISING HALL
6月13日(月)島根・アポロ
6月17日(金)沖縄・ナムラホール

「Dance, Dance, Dance」
7月9日(土)東京・日比谷野外大音楽堂
8月7日(日)大阪・大阪城音楽堂

EGO-WRAPPIN’ memorial live
11月27日(日)東京・日本武道館

詳細はofficial websiteを参照ください。

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