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Celebrate Summer〜マーク・ボランが死の直前に放ったシングル曲は“夏を祝福する歌”だった

2022.07.01

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1977年、グラムロックの創始者マーク・ボランはこの世を去った。
「自分は有名になるために悪魔に魂を売ったので30歳までは生きられないと思う」
生前、本人が度々言っていたという言葉である。
若い頃にフランスで魔女と同棲していた彼は、その魔女に「あなたは若くして大成功を収めるが、30歳までに血まみれになって死ぬだろう」と預言されたのだという。
ファンタジーが大好きな彼らしい作り話であると、友人達や取り巻きは信用しなかったのだが“現実は小説より奇なり”の言葉通り…その預言は現実のものとなる。
その悲劇は、彼が30歳の誕生日を迎える2週間前の9月16日に起きた。
恋人(内縁の妻)グロリア・ジョーンズが運転する車の助手席に乗って彼はロンドン郊外にある家に帰宅する途中だった。
疾走する紫のブリティッシュ・レイランド275Gは、二人を乗せたまま木立に激突し…彼は還らぬ人となった。
長年のヘロイン服用のためすでにボロボロになっていた血管が、衝突のショックで破裂したため、まさに全身血まみれになって亡くなったという。
奇しくもそのちょうど一ヶ月前の8月16日には、ロックンロールの巨星エルヴィス・プレスリーがこの世を去ったばかりだった…。


さかのぼること数ヶ月…当時バンドのメンバーを入れ替えて“新生T.REX”を再スタートさせた彼は、台頭してきたパンクロックを評価し、自身の国内ツアーの前座にザ・ダムドを起用したりしていた。
この年の3月、彼にとって“生前最後のアルバム”となった『DANDY IN THE UNDERWORLD(地下世界のダンディ)』が発表される。
アルバム収録曲の中から「The Soul of my Suit(心はいつもロックンロール)」「Dandy in the Underworld(地下世界のダンディ)」が立て続けにシングルカットされ、彼がこの世を去る一ヶ月前の8月には、アルバムに収録されていないこの「Celebrate Summer」がシングルリリースされた。

この曲がマーク・ボラン=T.REXにとって、事実上最後のシングル曲となった。
スピード感溢れるナンバーで、特に新たに参加したベーシストであるハービー・フラワーズのプレイが光っている。
ハービーは、初期のデヴィッド・ボウイの楽曲やルー・リードの「Walk on the Wild Side(ワイルドサイドを歩け)」などで有名なプレイヤーでもある。
間奏で聴かれるノイズに近いギターのアプローチや、歌詞に登場する“♪Little Punk”など、当時彼がパンクムーブメントをかなり意識していたことが垣間みれる。
奇しくもエルヴィス・プレスリーが死んだ月と重ってリリースされたこの楽曲は“ロックの季節”が変わろうとしていた時代の象徴的な歌となった。
「30歳までは生きれない」と予言しながら、彼が最後に放った夏のメロディは、この上なくポップで!ロマンティックで!そして…狂おしいほどに耽美的だった。

夏は僕らを決してがっかりさせたりはしない
それは衝撃的で…今がまさにその時なんだ
1977年の夏はまるで天国にいるようさ!


T・REX『DANDY IN THE UNDERWORLD(地下世界のダンディ)』

T・REX『DANDY IN THE UNDERWORLD(地下世界のダンディ)』

(1977/EMI)

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