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アーティストの曲作りを支えた音楽の女神たち

2016.06.16

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セシリア
僕の心は傷だらけ
君はいつも僕の自信を砕くのさ
セシリア
膝まづいて頼むよ
頼むから僕の元に帰ってきておくれ

サイモン&ガーファンクルが1970年に発表した「愛しのセシリア」はそんな歌詞で始まる。
ポップなラブソング。それがおそらく万人の第一印象だろう。

cecilia

ある日の午後、ガールフレンドのセシリアとベッドルームで愛を交わした主人公。顔を洗いに立って戻ってみると、彼女は他の男と。。。という内容なのだが、果たして、ポール・サイモンがそんな設定の歌を書くものだろうか。

だが、「セシリア」が主人公のガールフレンドではなく「聖セシリア」だったとすると、歌の意味はがらっと変わってくる。

「聖セシリア」。
ヘンデルの「聖セシリアの日のためのオード」などでも知られる彼女は、カトリック教会の聖人。楽器を奏でながら神の賛歌を歌ったことから、音楽家の守護聖人とされてきた。

文章を書く人間がお気に入りの万年筆を失くすと、この先文章が書けなくなるような気がしてしまうくらいだから、普段から音楽の聖人や女神と一緒に曲を書いてきたアーティストにとっては、そんなミューズがいなくなることは、どんな不安なことだろう。
あのポール・サイモンが土下座しているのである。

「僕ひとりで曲を書いていたなんて不遜なことは言わないから、戻ってきてくれよ」とセシリアに頭を下げているポール・サイモンを想像してしまう。
だからこそ、彼女が戻ってくると、主人公は大喜びなのだ。
不倫した不埒なガールフレンドが戻ってきても、この喜びようはないだろう、というほどにね。


ジュビレーション(大歓喜!)
彼女はまた僕を愛してくれる
僕は床を転げまわって、笑うのだ
ジュビレーション(大歓喜!)
彼女はまた僕を愛してくれる
僕は床を転げまわって、笑うのだ

ジュビレーションというのは、ジュビリーから派生した言葉だ。
ジュビリーは、ユダヤ民族がカナンの地に入ってから50年ごとの年を祝う安息年のこと。とても宗教的な響きがする言葉だ。

ベッドルームでセシリアと新しい歌のアイディアを練っていた主人公。顔を洗ったら、歌の女神とそれまで頭の中で鳴っていたメロディーが消えてしまったということなのだろう。
そして悲しんでいると、また女神はメロディーとともに戻ってきてくれたのである。



音の女神と一緒に歌を作ってきたのは、ポール・サイモンだけではない。
次はポール・マッカートニーの話である。


僕のことを忘れないでおくれ
可愛い僕のマーサ

ポール・マッカートニーにもミューズがいた。ポールはその存在のことをマーサと名づけ、自らが飼っていた雌犬をマーサと呼んでいた。

物語は、ある日の朝、ポールが友人と一緒に愛犬マーサの散歩に出かけた時に起こった。
丘をのぼる散歩コース。ポールは友人と議論に夢中になっていた。
彼らは「神は実在するかどうか」について議論していたのだが、気がつくとマーサの姿が見えなくなっていたのだ。


可愛い僕のマーサ
僕がずっとおしゃべりしてたからって
どうか、僕のことを覚えていてくれよ
忘れないでおくれ、可愛い僕のマーサ

「マーサ・マイ・ディア」の歌詞は、友人とおしゃべりに夢中になっている間に迷子になったマーサ、という設定以外に説明できないものだ。
そして、マーサを探そうと振り返ったポールは、コートを着込んだ身なりのいい紳士に出会うことになる。

「ポールが遭遇したある不思議な出来事」に続きます



サイモン&ガーファンクル『グレイテスト・ヒッツ』
Sony

※このコラムは2015年7月30日に公開されたものです

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