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TOKYO音楽酒場

【10軒目】国立・酒場 FUKUSUKE──地元に密着した音楽コミュニティの要にある酒場

2014.12.13

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いい音楽が流れる、こだわりの酒場を紹介していく連載「TOKYO音楽酒場」。今回訪れたのは、国立駅の南口にある〈お酒と趣味の店〉。月に1、2回ほどライブも開催されるこの酒場は、今や国立周辺のミュージシャンたちにとっても大切な存在となっているようです。

新宿から中央線で13駅。国立の駅を南口に出ると、大学通りと呼ばれる大きな並木道が真っ直ぐ伸びる。文教地区としても知られるこの街は、駅前に派手なネオンもけたたましい喧伝もないからか、どこかゆったりとおだやかな空気が流れているように感じる。並木道から放射状に伸びる小道のひとつを南東にしばらく進むと、雑居ビルの3階に今回訪れる音楽酒場〈FUKUSUKE〉がある。

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ドアを開けてまず目につくのが、店名にもなっている福助人形だ。カウンターの隅っこ、鴨居の上、店のあちこちで隠れキャラのように福助がニッコリと微笑んでいる。お客さんがおみやげに持ってきたりして、知らないうちに増えていったという福助の数をカウントしてみようと思ったが、30個を超えたあたりで挫折してしまった。

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木のぬくもりを活かした落ち着いた雰囲気のある店内。年季の入ったカウンターの中でパイプの煙をくゆらせるのが、店の主人・中井真治郎さん。奥様の美佐さんと二人三脚で経営している。店をはじめたのは15年ほど前。当初はお酒も飲める古本屋として営業していた。

「前の店舗も国立が最寄りではあるんですけど、駅から離れたところだったんです。10坪もないようなバラックみたいな店を、一人で適当にやってたんですけどね」(中井)

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9年ほど前に現在の場所に移転。建築音響の仕事をしていた経験を活かして、ライブスペースも兼ね備えた居酒屋としてリニューアルした。店内に飾ってある看板には〈お酒と趣味の店 酒場FUKUSUKE〉と書いてある。

「なんか〈お酒と音楽の店〉ってしたくなかったんですよ。そうなると音楽だけになっちゃうじゃないですか? 〈お酒と趣味の店〉なら、それぞれの趣味として受け取る人もいるし、店主が趣味でやってるって取る人もいるだろうし。昔から町中でもよく雑貨屋みたいなよくわからない〈趣味の店〉ってあるじゃないですか? それぐらいの感じがいいなって思って。今はもう無くなっちゃったけど、多摩蘭坂を上がって真っ直ぐいったところの左に、〈だんごと模型の店〉っていうのがあったんですよね。最初はだんご屋だったんだけど、趣味が高じて電車の模型も置きはじめて。そんな風に全然意味のないものを合体させたいなって思って、〈お酒と趣味の店〉ってつけたんです」

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そんなFUKUSUKEは、1軒目に来ても満足できるフードの豊富さも魅力だ。やわらかく煮込まれた豚の角煮やポテトサラダなどの前菜3点盛りや、あっさりしているのにコクがある塩もつ煮込みなど、酒のアテにぴったりなメニューから、花椒が効いた麻婆豆腐に中華麺にからめて食べる〈はじ麺〉のような〆の逸品まで、どれも手作りの優しい美味しさだ。ちなみに〈はじ麺〉は、この店でライブも行うピアニストの吉澤はじめ氏が考案したメニューだとか。また、香ばしさがたまらない伊豆大島の麦焼酎〈御神火〉や、山梨のワイン〈ソレイユ〉などの美味しい酒を嘘みたいにたっぷりとグラスに注いでくれるのも、酒呑みにはうれしい。

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現在では月1、2回ほど定期的にライブ・イベントも行われるようになったFUKUSUKEは、今や国立の人々が気軽に立ち寄る酒場として長く愛されているだけでなく、国立周辺を拠点とするミュージシャンたちにとっても、コミュニティの中心に位置する場所となりつつある。

「手本になったのは、以前から国立にある〈音楽茶屋 奏〉。今はオーナーが若い方に変わったんですが、もともとは前のマスターが飲み屋をやりつつライブもやってというスタイルを、国立でやり出したお店で。そこでピラニアンズや塚本功さん、片山広明さんや梅津和時さんが演奏されていたんですよね。そのマスターに紹介してもらって、いろいろなミュージシャンと知り合っていった。あとは、吉澤はじめさんがウチでライブをやってくれたのをきっかけに、ジャズまわりのミュージシャンを紹介してくれて。今ではウチでもたまにライブをしてくれているこだま和文さんも、最初は吉澤はじめさんに紹介してもらったんです」(中井)

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「いい場所が出来て、国立のミュージシャン仲間はみんな喜んでますよ。ふらっと入って、じゃがたらが流れてる店なんて、なかなか他にないもんね」と語るのは、元ロッキング・タイムのボーカリストで、現在はソロで活躍するシンガー・ソングライターの今野英明さん。FUKUSUKEでも定期的に演奏しており、12月28日にもライブが開催される。

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「FUKUSUKEのブッキングは素晴らしいセンスだからね。こだま和文さんはもちろん、松竹谷清さん、ピアニカ前田さん、リトル・テンポの土生くん、リクルマイちゃん……と、いろいろな人がライブをやってる」(今野)

「松永孝義さんもここで一度ライブしてくれたことがあるんです。その後、体調が悪くなってしまったけど、手術して一度復帰した時に、土生くんとサックス奏者の宮野裕司さんと松永さんのトリオでライブをやるというので、練習のために昼間貸し出してことがあって。その後、松永さんの体調が再び悪化してそのまま亡くなってしまったので、結局そのトリオは実現しなかったんですけどね。今度、松永さんに代わって、TICAの石井マサユキさんが加わってライブをやることになったんです。松永さんと出会えたのも、こだまさんのおかげだし……店をはじめてから今まで、いろんなミュージシャンの方々と出会ってきたし、何よりジャンルはともあれ、素晴らしい音楽があるんだというのを、みなさんに教えてもらった感じはありますね」(中井)

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それにしても、国立には昔から個性豊かなミュージシャンたちが集っているような印象があるのはなぜだろう。

「こだまさんをはじめレゲエ系のアーティストも多く住んでるけど、別に示し合わせて集まったわけじゃないし、たまたま住んでるだけなんだけどね」(今野)

「よく言われてるのは、国立にぶどう園っていう場所があって、そこに音楽に理解のある大家さんが経営するアパートがあったのがひとつの要因だと。もともと音大や美大があったこともあって、ピアノを弾けたり絵を描けたりする部屋を安価で貸していたそうなんです。そこでピアニカ前田さんもこだま和文さんも知り合ったんですよね。ぶどう園には遠藤ミチロウも住んでたそうだし、忌野清志郎も出入りしてたらしいですからね。有名無名問わずアートや演劇やってる人も集まって、自然とコミュニティが出来ていったんだと思います」(中井)

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「そういうコミュニティの感覚が、ずっと続いてるんだろうね。俺より下の世代で国立界隈のミュージシャンというと、ハナレグミやショピンとか。SAKEROCKは谷保の〈かけこみ亭〉でずっとリハーサルをしてたんだよね」(今野)

国立に25年以上暮らす今野さんは「国立 is the place for me」という歌まで作ったほど、この街に愛着を持っている。


「通ってた学校が近かったから国立に住んだんだけど、もう数えたくないぐらい長く住んでるね(笑)。やっぱり街が綺麗だし、今なんて並木道がすごく綺麗で。武蔵野の面影も残ってるし、ロック好きにはお馴染みの多摩蘭坂があったり……あと俺は小説家の山口瞳さんが好きなんだけど、『居酒屋兆治』のモデルになったお店があったりね」(今野)

「もともと僕もこのあたりが地元だったけど、別に国立がめちゃめちゃ好きってわけでもなくて。ただ、これだけ緑があるところも中央線でも珍しいし、街のいいところはいくつかあるけど、いろいろ差し引いて考えた結果、なんとなく国立で店をやるようになっちゃったって感じですかね」(中井)

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「昔からの国立もいいんだけど、最近は新陳代謝で面白い人や店が集まってきてて。駅の南口は開発されすぎちゃってるけど、北口のほうに面白い個人店が増えてる。好きだった店がなくなったり、好きだった人がいなくなったりもするけど、その代わりにいいお店や人も入ってきてるしね」(今野)

「ただね、野良猫みたいに関係性を作っては壊してどこかにいっちゃう人たちもいるけど、そういうのはイヤだなって思って。そんなことを意識しはじめたのは、やっぱり3.11以降ですかね。あの時、東京に住みたくないと思ったら、この店をたたんでどこかへ行ってしまってもよかった。だけど、この店があったから残ったわけだし、結局、今も店を続けているんですよね。以前よく来てくれていたお客さんで、3.11をきっかけに地方に疎開した人がいたんですけど、1ヶ月ぐらいたってまたお店に来てくれて。その時『この店がやっててよかった』って言われたのは、やっぱりうれしかったですよね……せっかくずっと一緒にいた人たちだから、なんとなくこの街でずっと一緒にいたい。そんな風にも思うんです」(中井)

そう朴訥と語る中井さんは、今夜もカウンターの中でパイプをくわえながら待っている──FUKUSUKEにやってくる人たちを。国立に帰ってくる人たちを。

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撮影/相澤心也



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酒場 FUKUSUKE
東京都国立市東1-15-22国立サニービル3階
TEL 042-574-0445
OPEN 19:00~26:00 木曜定休
http://ameblo.jp/sakabarfukusuke/
http://www004.upp.so-net.ne.jp/bar-fukusuke/


LIVE SCHEDULE

2014年12月21日(日)
Silent night 純粋なるDUO こだま和文×吉澤はじめ

こだま和文(tp)from DUB STATION/吉澤はじめ(p)from BOOT

2014年12月28日(日)
国立is the place for me! Vol.3
今野英明 & Walking Rhythm acoustic LIVE

今野英明(vo,g,ukulele)/八木橋恒治(g)/黄啓傑(Trumpet)*ゲストあるかも!?

2015月1月11日(日)
宮野裕司×石井マサユキ×土生”Tico”剛 LIVE!

宮野裕司(as,オカリナ)/石井マサユキ(g)from Tica,GABBY&LOPEZ/土生”Tico”剛(steelpan)from Little Tempo

2015年1月28日(水)
松竹谷清LIVE!!

松竹谷清(vo,g)ex.TOMATOS/ピアニカ前田(pianica)ピラニアンズ

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