ダブ・バンド=ドライ&ヘヴィーのボーカリストとして頭角を表し、2005年からはソロ・シンガーとして精力的な活動を展開してきた、リクルマイ(Likkle Mai)。ギタリストのThe Kとの2人編成や、日本のレゲエ・シーンの腕利きたちを揃えたLikkle Mai Band、あるいは自らターンテーブルで音源をかけながら歌うラバダブ・スタイルなどさまざまな形態で、日本はもちろん海外でも精力的にライブを展開している。
これまで4枚のアルバムを発表してきたリクルマイの新作は、『きたぐにのはる』と題されたミニ・アルバム。ずっとレゲエ/ダブのオリジナル曲を中心に作品を作ってきた彼女だが、今作で取り上げるテーマはなんと東北の民謡とレゲエを融合させた〈民謡レゲエ〉なるスタイルだ。
岩手県宮古市出身のリクルマイは、3.11以降、幾度となく生まれ故郷に戻っては被災地支援に尽力し、チャリティ・イベントにも多く出演してきた。その中でお年寄りも楽しめる歌はなんだろうと考えるうちに、民謡を歌うことを意識しはじめたという。そうしてあらためて民謡と触れていくうちに、民謡とレゲエで定番となっているトラックが合うんじゃないかと気付き、民謡レゲエというアプローチにトライすることとなった。
Likkle Mai Bandに加えて、震災後の脱原発デモなどをきっかけに交流を深めたジンタらムータの大熊ワタル&こぐれみわぞうをゲストに迎えて制作された本作。スレンテンのリディムで歌われる「秋田音頭」は、元の節回しにある跳ね具合やファンキーさが引き出されるようでもあり、歌詞にあるユーモアもより際立つ。この他にも「相馬盆歌」「チャグチャグ馬コ」などが、いわゆるモンスター・リディムと融合し、今の時代のリスナーに新鮮な驚きを与えてくれるだろう。また、明治〜大正に活躍した演歌師・添田唖蝉坊のコミカルなプロテスト・ソング「のんき節」をプナニーのリディムに乗せて歌うなど、強烈なインパクトをみせてくれる。
唯一のオリジナル曲となるタイトル・チューン「きたぐにのはる」は、ウクレレをメインに演奏されるアコースティックなロックステディ。
あれから3年の月日
遠い日のようで こないだのような
平穏無事とは対極の日々
あの日から早3年
(「きたぐにのはる」より)
そんな歌い出しではじまるこの歌。震災後、何度も被災地に足を運んだリクルマイが、実際に自分の目で見たり耳で聞いたりしたことを基に、〈北国の民〉たちのいくつもの物語をスケッチしていく。
悲喜こもごもを抱えながら前に進んでいく逞しさ。それと同時に、その悲喜こもごもをいつまでも忘れないでいることの優しさ──デモの先頭の車に乗り込んでマイクを握っては、攻撃的なアジテートも、直截的なレベルソングも歌ってきたリクルマイが、これほどにもやさしく、そしてユーモラスなアプローチでもって、あらゆる世代に向けたメッセージを伝えようとしている。この『きたぐにのはる』はシンガーとして、そしてメッセンジャーとしての彼女にとって、きっと大きな転機となる作品だ。
リクルマイ『きたぐにのはる』Trailer
リクルマイ「相馬盆唄」 Live at Tokyo
リクルマイ「チャグチャグ馬コ」 Live at Montreal
ソウル・フラワー・モノノケ・サミットwith Likkle Mai&The K 「のんき節」 Live at Tokyo