甘い恋心や切ない想いを、ゆったりと心地良いレゲエのサウンドに乗せて歌い上げていく、ラヴァーズ・ロック。そんなラヴァーズ・ロックをポップ・ミュージックのひとつとして根付かせ、広く伝えようと奮闘している、ふたりの女性シンガー、asuka ando(アスカ・アンドウ)とqimygo(キミーゴ)を紹介しよう。
asuka andoは、20代の頃からクラブ・シーンで活動するシンガー。数多くの客演やセッションを経て、2011年にミニ・アルバム『dream of you』をリリース。今年4月に初のフル・アルバム『mellowmoood』を発表した。
asuka「たとえばボブ・マーリィにとってのウェイラーズみたいに、自分のパーマネントなバンドがあることにも憧れはあるけれども、せっかくソロなんだからいろんな人と音楽を作ってみたい。なのでスティーリー・ダンのように、曲ごとに編成を変えるような作り方でアルバムを制作していきました」
キーボード奏者のエマーソン北村をはじめ、リトル・テンポ、cro-magnon、Reggaelation IndependAnceのメンバーなど数多くのミュージシャンが参加した、カラフルな作品に仕上がった。
asuka「現場でのつながりを、作品に落とし込みたかった。なので参加ミュージシャンはほとんどが、クラブやイベントで知り合って共演してきた人ばかりです。たとえばエマーソン北村さんは渋谷ROOTSで飛び入りセッションしたこと(昨年、TOKYO音楽酒場で取材時に開催されていたイベント→記事)がきっかけで、このアルバムにも参加していただけたので。ドラムの大石幸司さん(リトル・テンポ/川上つよしと彼のムードメイカーズ)や、キーボードの北村哲さん(ex.やっほー!バンド)のように、コアなファンはご存知かもしれませんが、東京のレゲエ・シーンにはこんなにもすごいミュージシャンたちがたくさんいるのよ!っていうことも伝えたかったんです」
レゲエ界隈の利き腕たちが集った本作だが、肌触りは実にスムーズな、上質なポップ・アルバムに仕上がっている。
asuka「私は、90年代のヒップホップやR&B全盛期で育ったから、どうしてもそこは抜けなくて。20代の頃は、R&BのB面(インスト)をかけて、そこに自分の歌を乗せるスタイルでライブをしてたんです。でも、どうしてもディーバ系の歌い方に抵抗があったのと、言葉が上手く乗らないと感じていた。そこで、レゲエのトラックにあわせて歌ったら、思った以上に自分の歌がフィットしたんです。レゲエが好きだし今こうしてレゲエをやっているけど、ルーツを掘り下げるというより、私はレゲエを身に纏うような感じで歌ってます」
6曲入りのミニ・アルバム『暗闇ファンファーレ』でデビューする、qimygo。彼女は20代からALPHATONES、The Drops、The Cavemansなどのスカ/レゲエバンドに鍵盤奏者として参加してきた。並行して自作の曲を作りはじめ、2013年からソロ名義での活動を開始。鍵盤弾き語りのスタイルのシンガー・ソングライターとして、ライブやセッションを重ねてきた。
qimygo「ソロとして自分の歌を歌いたいって思った大きなきっかけは、震災ですね。私は3歳から12歳まで岩手で育ったんですが、やっぱり生きている間に何が残せるか、何のために音楽をやっているのか……と向き合ってみたら、自分の意志で動くプロジェクトを、自分ですすめていかなくちゃダメだなって一念発起して。有り金はたいてレコーディングしました」
参加ミュージシャンは大石幸司(リトル・テンポ)、MAH(GREEN MASSIVE)など、asuka andoの作品にも共通する面々をはじめ、サックス奏者のイナッチ(FRISCO)、鈴木孝夫(RISINGTONES)など、彼女がバンド活動してきた中でつながっていったプレイヤーも参加している。
qimygo「名刺代わりになる1枚なので、まずは足場を固めようと、心を開けるメンバーたちとバンド・スタイルで作りました。小さい頃からポップスを聴いて育ってきて、その流れでレゲエやブラック・ミュージックと出会ってきた。その一方で日本人ならではの琴線に触れるメロディも好きなので、そういった要素を自分なりに昇華して……子どもが聴いて一緒に歌えたり、サラリーマンの方が帰り道に口ずさんでもらえるような1曲を作るというのが、大きい目標としてあります。それは、何かの時に音楽が救ってくれたっていう、自分自身の経験もあるのでね」
日本語の響きを大切にしたqimygoの歌声は、生音のあたたかみを活かしたアンサンブルと相まって、ほがらかに響く。
qimygo「私は、これまでに音楽から何をもらってきたかというと、ちょっとした気持ちだったなって思うんです。それは胸がキュンとしたり、疲れた時に聴いてちょっと気分が楽になったり、少しだけ人とわかりあえたり……街の片隅を歩いてる女の子がつぶやきながら感じてることを、レゲエに乗せて歌ってるような」
どちらもレゲエを基軸にしたサウンドながら、qimygoが坂本九や弘田三枝子が活躍した60年代のポップス歌謡あたりを連想させるのに対して、asuka andoは70年代〜80年代のソウル/AORを想起させるアレンジ。ちょうどジャマイカ音楽の歴史でいえば、ロックステディからラヴァーズ・ロックへ移行する流れを、たまたまタイミングを同じくしてリリースされた2枚の作品が感じさせてくれるのも面白いところだ。
偶然の一致が生んだ面白さは、他にもある。qimygoは細野晴臣「恋は桃色」を、asuka andoは大貫妙子「くすりをたくさん」をそれぞれカバー。どちらも細野晴臣が関連する楽曲だが、それぞれの個性の違いを感じられるのと同時に、共通するポップス観が垣間見える。
qimygo「(はっぴいえんど関連のミュージシャンや作品を)個人的に好きで聴いてきたというのもあるし、当時は界隈のミュージシャンたちがクオリティが高い作品をバンバン作っていたし、シンガーを立ててプロデュースをしていく作品も多かったじゃないですか。あの頃の音楽家たちへの憧れもあるんです。それに、今そういった音楽を聴いてるリスナーにも、私の曲を聴いてほしいので。ある種の賭けじゃないけど、思い切ってレゲエでカバーしてみました」
ここ数年で目立ってきているのが、日本のレゲエ界隈のミュージシャンたちが、小さなクラブやライブハウスなどで突発的なセッションが繰り広げられたり、さまざまな組み合わせでユニットやバンドが組まれたりと、音楽的な交流が盛んになってきた。そうした活動から、レゲエ・シーンを支えるミュージシャンたちの表現の幅が格段に広がってきたのも、asuka andoやqimygoの作品が生まれた下地になっているのは間違いないだろう。
asuka「たとえばアルバムに参加してくれて、ライブも手伝ってくれているヤギー(dr)とMAHくん(b)とARIくん(g)、あと北村哲さんなどは、このバンド自体で営業がバンバン入って来てもおかしくないぐらい、素晴らしい組み合わせだと思うんですよ。こんなにいいミュージシャンたちの音源やライブをもっと聴いてもらいたいと思います」
qimygo「私もasukaちゃんもラヴァーズロックが好きだからこそ、裾野を拡げていきたいし、私たちの音楽がそのきっかけになればいいなって思って。『耳当たりのいいポップスだけど、これってレゲエらしいね』みたいなところで、いろんな人に普通のポップスとして聴かれるようになってほしいんです」
asuka「そうね。〈東京ラヴァーズロック・シーン〉がもうちょっと底上げされて、聴きたいって思ってくれる人が増えたらいいなって。今はまだ、音楽シーンの中でも片隅にあるような存在だけど、私たちが歌っていくことで『こういう歌を歌いたい』っていう可愛くて若い女の子がどんどん出てきてくれたらいいな」
asuka ando official website
http://www.mellowmoood.com/
qimygo official website
http://qimygo.tumblr.com/