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エミネムの27歳〜魂と引き換えに獲得した栄光

2018.10.18

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「“8マイル”は、デトロイトにあるシティと郊外を隔てているラインのこと──金持ちと貧乏人、肌の色──デトロイトっていう街が持つ人種のボーダーラインを象徴している。その両側を見て育って、いつもその狭間でどっちつかずの状態に陥ってる自分のことを、俺はどこかで恥じていた。自分が住んでいる地域のこと、自分が白人であること……」

のちに、映画『8マイル』で自らが育ったデトロイトの街を描いたエミネム。生まれてから一度も父親の顔を見ることなく育った彼は、幼い頃から極貧の生活を強いられ、友達もできず、自殺未遂まで経験したという、どん底の暮らしぶりだった。そんな中ヒップホップにのめり込み、14歳で本格的にMCとしての活動を始めるも、ヒップホップの世界に入れば白人ラッパーは色眼鏡で見られてしまう。黒人ばかりの聴衆から受けるバッシングに対抗すべく、自らバトルMCとしての道を進んだ。

実力を身につけた後も、やはり白人であることが障壁となり、なかなかのし上がることができない。そんな現状への不満、社会への憎悪、嫉妬、劣情──激しく渦巻くネガティブな感情を吐き出すために、エミネムは自分の中に「スリム・シェイディ」という別人格を宿らせた。有史以来最悪のシリアル・キラー(連続殺人鬼)でありテロリスト、強姦魔であり、道化師である架空のキャラクターを生み出すことで、エミネムのラップは変化していった。耳を塞ぎたくなるような口汚い言葉に満ち溢れていながら、どこか人を食ったようなユーモラスさも漂う彼のラップは、中毒的に人々の心を魅了していく。

1997年に自主制作でリリースした「The Slim Shady EP」がローカル・ヒットすると、西海岸ヒップホップの名プロデューサー、ドクター・ドレーに見い出され、彼のレーベルと契約。1999年に発表したメジャー・デビュー作『The Slim Shady LP』は、全世界で600万枚を超えるセールスを記録。遂にはグラミー賞最優秀ラップ・アルバムを受賞した。エミネムが27歳の時のことだった。

ロバート・ジョンソンがクロスロードで悪魔に魂を売り渡したように、エミネムは8マイルでスリム・シェイディに魂を売り渡した──悪魔の手を借りて一度自分自身を殺した彼は、その後スターダムへとのし上がっていった。


エミネム『ザ・スリム・シェイディLP』

エミネム
『ザ・スリム・シェイディLP』

(ユニバーサルミュージック)


エミネム「My Name is…」 PV
エミネム「The Real Shady」 PV

2018年8月31日に急遽リリースされた『KAMIKAZE』は、様々な物議を醸した。ビースティ・ボーイズのアルバム『License To Ill』のジャケットをモチーフにしたジャケットが賛否両論を呼んだのはまだ序の口。ドナルド・トランプから人気若手ラッパー、さらに前作『Revival』に低い評価を下したメディア関係者まで、あらゆる方面に対してディスしていく、まさに炎上上等といったような内容の問題作となった。

名実ともにヒップホップ・シーンのスーパースターとなり、2013年にはシングル「Rap God」をリリースしたエミネム。しかし、最新アルバム『KAMIKAZE』収録曲「Fall」のMVのラストシーンでは、悪魔に魂を乗っ取られて“Rap Devil”に変化し、自らのCD『Revival』を彼自身の足で踏み潰す場面で締めくくられる。

エミネムは再び、悪魔に魂を売り渡したのだろうか。

エミネム「Rap God」 PV
エミネム「Fall」 PV

エミネム『KAMIKAZE』

エミネム
『KAMIKAZE』

(ユニバーサルミュージック)


*本コラムは2013年11月30日に初回公開された記事に加筆修正したものです。

TAP the POP 2周年記念特集 ミュージシャンたちの27歳~青春の終わりと人生の始まり〜

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