テイラー・スウィフトの最新作『1989』は2014年10月にリリースされたにも関わらず、その年発売されたすべてのアルバムの中で最大のセールスを記録した。ビルボードのアルバムチャートでは大物アーティストたち(ピンク・フロイドやガース・ブルックスなど)の話題作を抑えて首位を独走。その後トータルで11週間も留まり、シングルも「Shake It Off」「Blank Space」と立て続けに1位を獲得したのは記憶に新しい。
そして2015年5月現在、本国アメリカだけでも約500万枚、世界では早くも1000万枚近くに到達しようとしている。アルバム不況と言われる音楽シーンにおいて、これはかなり凄いことだ。
2006年のデビュー以来、リリースされる作品はすべてベストセラー。19歳でグラミーも受賞。ソーシャルメディアを駆使して世界中のファンとつながって多大な影響力を持つ。長身スタイルやセンスの良さでファッションアイコンとしても数多くの雑誌に取り上げられる。日本でも「テイラー女子」現象を起こしたり、恋愛バラエティに彼女の楽曲を使用する番組もあった。
また、毎年発表されるアメリカの経済誌Forbesの「Celebrity 100」には2010年から常連になり、2014年は6400万ドル(約65億円)を稼いで、世界で最も影響力のあるスターの座を維持している。そんなテイラーはまだ25歳(2015年5月当時)。
『1989』は彼女にとって初めての全編ポップミュージック仕様のアルバムだが、テイラーには「カントリー・ミュージシャン」という本来の顔がある。あるいは曲作りを自ら行う「シンガー・ソングライター」でもある。
──1989年12月、ペンシルべニア州のスモールタウンで生まれたテイラーは、リアン・ライムス(テイラー以前で10代で世界的な成功を収めた)やリーバ・マッキンタイアやシャニア・トゥエインなど女性カントリーシンガーの歌声を聴いて育った。カントリーを歌うとクラスメイトにからかわれて学校嫌いになったが、そんな歌手にどうしてもなりたくて11歳の頃からデモを吹き込む。
家族は娘の夢を100%支えることを約束して、カントリー音楽の聖地であるテネシー州ナッシュヴィルへ移住。ただスターになりたいという少女の気まぐれではなく、確かな才能があったからこその決断だった。母親と一緒にすべてのレーベルに売り込んだようだ。
その甲斐あってか、わずか14歳で音楽出版社と作曲家として契約することに成功。それからの2年半は毎日のように学校の教室や放課後に曲を書いていた。この期間はいわゆる世間のウケ狙いの曲を書かなければというマーケティング思考を追い払うための良き鍛錬となった。
そして16歳の時、念願のレコード契約を得る。この時、大手会社からもオファーがあったようだが、テイラーはあくまでも自作の曲を吹き込むことに拘り、この話を蹴ったという。ショービジネスの操り人形のように扱われて、やがてツケとして破天荒な人生を歩まされるよりは、恋に悩んだりする等身大の女の子でいたかったのだ。
2006年6月にリリースされたデビュー曲「Tim McGraw」はカントリーの大スター、ティム・マッグロウを聴いて別れた恋人を想う少女の歌。同年リリースした1stアルバム『Taylor Swift』は大ヒットした。
以降、『Fearless』(2008)『Speak Now』(2010)『Red』(2012)と2年に1作のペースでアルバムを制作。ツアーも全米だけでなく、世界各国に渡って大規模化していく。彼女にとっての曲作りは、個人的な恋愛経験が不可欠なようで、自分と同じポップスターたち(ジョナス兄弟のジョー・ジョナスや映画で共演したテイラー・ロートナーなどが有名)とのロマンスが下敷きになっている。
カントリーやポップだけでなく、テイラーはロック好きでもある。母親の影響でデフ・レパードのファンでもあった彼女は、2008年にはステージで彼らと共演して話題になった。
また、2009年のMTVアワードでは、晴れ舞台の最中にラッパーのカニエ・ウェスト乱入によってスピーチが妨害されるというとんでもない事件に巻き込まれるも、彼女はこの状況下においてカメラの前で礼儀正しい振る舞いを貫いた。その根底にあったのは、自分よりも若いファンの見本になりたいからという想いだけだった。(ちなみにオバマ大統領はカニエを痛烈に非難した)。
「音楽はアートであり貴重で価値あるものだから、お金を払うに値する」
「人はまだアルバムを買う。救われた気持ちになるような作品であれば、必ず人は買ってくれる」
「ネット動画でライブ映像はいつでも観れるから、生のステージではファンが観たこともないようものを提供するために毎回スペシャルゲストを呼ぶ」
など、近年の音楽の無料化やアルバム不況やネット事情についても、彼女は明確なヴィジョンを持っている。
成功してもブレない意志の強さ。まともなライフスタイル。身近な経験を糧にした曲作り。そして音楽業界での自分の居場所を知ること。テイラー・スフィフトの勢いはこの先も止まりそうにない。彼女にはストーリーを描く才能がある。
*このコラムは2014年12月1日に初回公開されたものに一部加筆しました。
2006年のデビュー曲「Tim McGraw」
2008年にはデフ・レパードと共演
『1989』からの大ヒットシングル「Shake It Off」
2022年にリリースされた最新作『Midnights』より
アルバム『1989』
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【最新情報】
THE ERAS TOUR 2024年2月7日・8日・9日・10日に東京ドームで公演
【ディスコグラフィー】(ビルボード総合チャート順位/全米売上)
2006年『Taylor Swift』(5位/700万枚)
2008年『Fearless』(1位/1000万枚)
2010年『Speak Now』(1位/600万枚)
2012年『Red』(1位/700万枚)
2014年『1989』(1位/900万枚) ←この記事を書いた時期がここ
2017年『Reputation』(1位/300万枚)
2019年『Lover』(1位/300万枚)
2020年『Folklore』(1位/200万枚)
2020年『Evermore』(1位/100万枚)
2021年『Fearless (Taylor’s Version)』(1位)*Re-recordings
2021年『Red (Taylor’s Version)』(1位)*Re-recordings
2022年『Midnights』(1位/200万枚)
2023年『Speak Now (Taylor’s Version)』(1位)*Re-recordings
2023年『1989 (Taylor’s Version)』(1位)*Re-recordings
2024年『The Tortured Poets Department』*4月発売予定のニューアルバム
(こちらの記事もこの機会にぜひお読みください)
テイラー・スウィフトだけじゃない! 美女揃いのカントリー歌手たち (前編)
テイラー・スウィフトだけじゃない! 美女揃いのカントリー歌手たち (後編)
【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
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