ベックのニュー・アルバム『カラーズ』が10月11日に日本で先行リリースされた。
グラミー賞を受賞した前作『モーニング・フェイズ』から3年半を経て発表された今作について、ベックは「生きることのエモーションを捉えようとした“セレブレーション・ミュージック”」だと説明する。
このレコードは「イエーイ、グレイト! 何もかもパーフェクト!」みたいな場所から出てきたんじゃないんだ。
喜びを見つけようとする音楽なんだけど、大変なこと、失望、苦しみ、痛みも失敗もある。
そういうのをちゃんと見たうえで、生きている実感やフィーリングを何とか見出そう、そしてそれを音楽の中に持とうってことなんだ。
ほら、グレイトなレコードって、タイムレスな喜びの感覚があるよね?
例えば、デヴィッド・ボウイの『レッツ・ダンス』やマイケル・ジャクソンの『スリラー』、ピーター・ゲイブリエルの『So』。
注意深く聴くと悲しさや怒りがあるんだけど、最終的にはとてもアップリフティングで楽しいものになってるんだ。
ベックが求めるのは単なる喜びではなく、苦難の中で見出した普遍的な喜びだ。
そうした喜びを宿している作品としてベックは3枚のアルバムを例に挙げているが、いずれも国境や時代を超えて多くの共感を得てきた。
しかしそうしたレコードを作るのは並大抵のことではないと説明する。
そういう80年代のレコード、あとビートルズの『サージェント・ペパーズ』みたいな60年代のグレイトなレコードもそうなんだけど、とにかくすごく野心的なんだよね。
パワーの頂点にあったアーティストが最後までアクセルを踏み切ったっていう。彼らは全部やりきったんだよ。
で、僕の若い頃っていうのは、野心的であることが受け入れられない時代だった。いつだって速度制限があって、それより速く走るのが許されなかったんだ。
だから、何か思いついても、それをそのままやるのは許されなくて、ちょっとトーンダウンしなきゃいけない気にさせられた。
ベックの1stアルバム『メロウ・ゴールド』がリリースされたのは、グランジ・ブーム真っ只中の1994年。
フォークやヒップホップをミックスさせた独自のサウンドは新しい時代の到来を予感させ、カート・コバーンの死によってグランジ・ブームが失速すると、それと入れ替わるようにして次世代の旗手となった。
その後もアルバムを発表する度にガラッとサウンドや方向性を変えてみせたりするなど、世間からすればベックは十分に野心的なアーティストだったが、それでも本人によればブレーキはかけていたという。
でも、今の僕はもうそんなのどうでもいい心境になったんだ。
例えば、「俺はレッド・ツェッペリンが好きだ」とか、「俺はマドンナが好きだ」って言っても許されるようになったし、同時に、そういうのが好きな人がアーケイド・ファイアを好きでもかまわないってこと。
つまり「何がよくて、何がダメなのか?」っていうルールがなくなったんだよ。
それで「自分はどういう音楽を作りたいんだろう?」ってずっと考えてた。でもみんな気に入らないんじゃないか、自分は頑張ろうとしすぎなんじゃないか、とか思ったりもしてね。
以前は曲を作っては仕上げる前に、「この作りかけの感じがクールじゃん」ってなることがあったんだよ。中途半端なのがいいってね。
でも今はアイデアがあったら、ちゃんと最後まで仕上げて、できるだけベストなものにしようとしてる。まあ、その方がいい曲になるのかどうかさえ、僕にはわかんないんだけど。
それでもとにかく“すごく野心的になる”っていうのが僕がずっとやりたかったことなんだ。
だって、さっき話した『スリラー』とか、ああいうレコードっていうのはめちゃくちゃに野心的で、ものすごく才能に溢れた人たち、パワーの頂点にあったアーティストが作ったレコードだからね。
だから、このレコードのスピリットはそういう感じ。「自分ができること以上のもの、よりビッグなものを作ってやろう」っていうことなんだ。
20年以上のキャリアを持ち、今年で47歳となったベックだが、その創作意欲は失われるどころかますます高まっており、新譜『カラーズ』はこれまででもっとも“野心的”になった意欲作となった。
なお、10月下旬には来日公演も予定されている。
【ベック来日公演情報】
2017/10/23(月)東京・日本武道館
WITH VERY SPECIAL GUEST CORNELIUS
Open 17:30 / Start 18:20
2017/10/24(火)東京・新木場Studio Coast
Open 18:30 / Start 19:30
ベック来日公演オフィシャルサイトはこちら
(取材:小林祥晴/田中宗一郎 構成:佐藤輝 協力:ホステス・エンタテインメント)