カート・コバーンが「ジョニー・キャッシュのようなシンガー・ソングライターとして評価されたい」と憧れを公言していたように、カートの自殺の1ヶ月前にデビューを果たしたベックもまた、ジョニー・キャッシュに強く影響を受けたアーティストのひとりだった。
「私が、1995年にハリウッドのパンテージズ・シアターで演奏していた時に、ベックが私のためにショーを開いてくれたんだ。バックステージで彼の音楽を聴いていたんだけど、アパラチアン・ミュージックであるヒルビリーの演奏にとても感銘を受けたのを覚えている」
1997年、テレビ番組の取材を受け、ジョニー・キャッシュはベックについてこう語った。
40歳近い年の差がある二人だが、両者は共鳴しあう感覚を持っていた。
「彼はとても巧みだった。いろんな曲を演奏していたけれど、とくに〈Rowboat〉は好きだった。私が60年代に作っていたかもしれないような曲だ。当時、私も同じようにつらい経験をしたことがあったからね」
Johnny Cash talks about Beck documentary TV show 1997
ベックのライブで初めて聴いて以来、「Rowboat」は幾度かキャッシュのステージでも披露され、American Recordingシリーズで正式にレコーディングもされた。
船を漕げ 向こう岸まで連れてってくれ
彼女は 友達にもなりたくないんだと
彼女は穴を掘った 俺の心の奥底に
彼女は 友達にすらなりたくないんだと
芸術家の祖父、音楽家の父、ヴィジュアル・アーティストの母という家系に生まれたベックは、高校中退後、家を飛び出して、ヨーロッパやアメリカ国内を放浪して生活していた。
「僕が10代の頃はギリギリの生活だった。ただ、ホームレスをやっていても悲惨だって感じなかったね。僕には音楽があったから、いつも裕福だった」
パンテージズ・シアターでジョニー・キャッシュのために演奏したベック。彼はその時に、ジミー・ロジャースの「Waitin‘ For A Train」のカバーを披露している。この曲もまたジョニー・キャッシュの古いレパートリーであり、流れ者の歌であった。
ジョニー・キャッシュとベックは、時代を超えて、同じ景色を見ていた。
Beck「Waitin For A Train」Live at Pantages Theater 1995
Johnny Cash「Rowboat」
Beck「Rowboat」
*本コラムは2014年2月8日に初回投稿された記事に加筆修正しました
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