(ピート・タウンゼント①はコチラ)
「今夜はギターをぶっ壊すのはナシだ! 客がどう思おうが知ったことか。」
ピート・タウンゼントが常々、ステージに上がる時に誓っていた言葉である。
しかしライブの終盤になると、結局いつものようにギターを叩きつけてしまうのだ。
そのおかげでザ・フーは世界一のライブ・バンドと称されるようになり、アメリカ進出を果たすこともできた。
だが、ギターを壊すことでしか観客を盛り上げることができないという己の不甲斐なさは、ピートを常に悩ませ続ける。
ターニングポイントとなったのは1968年の8月末。
カリフォルニアのライブハウス、フィルモア・ウェストでのザ・フーのライブ、ピートは初めて誓い通りにギターを叩きつけることなくステージを終えた。
そのことについて、ピートはライブ後のインタビューにこう答えている。
「いったいどうしてなのか自分でもわからないが、とにかく今夜は誓いを守れた初めてのショーになったのさ。これまで何百万回と誓っても、ギターを壊さない日はなかったのに。」
あとになって振り返ると、それはザ・フーが大きな変革を迎える前兆だった。
この頃、ピートはそれまでのロックとは違う新しい音楽を創りだそうとしていたのだ。
それらの楽曲ならば、ギターを壊さなくても観客を満足させることができるんじゃないか、そうした想いがギターを壊すという行為を思いとどまらせたのかもしれない。
翌年5月、ザ・フーはロック・オペラと称されるアルバム、『Tommy』を発表する。
視覚、聴覚、声の3つを失った主人公、トミーの物語がアルバムを通して展開していくという、それまでのロックにはない新たな世界観が大きな話題となり、全英2位、全米4位の大ヒットを記録。
ここからザ・フーは黄金時代を迎え、数々の名盤を生み出していくことになる。
フィルモア・ウェストでのライブは、パフォーマンスに頼らなくてはいけない非力な自分との決別だったのだろう。
The Who / Pinball Wizard (from『Tommy』)