ためらわずロープを切って
海に放っておくれよ
新しい船を 見知らぬ船
(「進水式」より)
〈キリンジ〉から〈KIRINJI〉へ──2013年春のツアーで弟・堀込泰行が脱退、兄・堀込高樹が屋号をそのまま引き継ぎ活動することになった、KIRINJI。その後、新生KIRINJIは、高樹のソロ・ユニットではなく、シンガー・ソングライターとしても活躍しているコトリンゴや、女性ギタリストの弓木英梨乃、そして以前よりキリンジのサウンドを支えてきた、田村玄一(ペダルスティール、スティールパン)、千ヶ崎学(ベース)、楠均(ドラムス)が加入した6人編成のバンド形式として活動することが発表され、あまりにも意外な展開に大層驚かされたのを覚えている。
その同年12月には、早くも新生KIRINJIのワンマン・コンサートを、渋谷オーチャードホールにて開催。開演前は不安と期待が入り混じったような感覚だったが、実に有機的に作用し合う6人のアンサンブルが響き渡ると、そんな想いはすぐに吹き飛び、一気に新生KIRINJIが描く世界にのめり込む。キリンジ時代からの楽曲や、堀込高樹ソロ作からのレパートリー、他アーティストへの提供曲のセルフカバー、そして6人で作り上げたKIRINJIとしての新曲を披露。このメンバーで始動する報せを訊いた時の驚きは、いつしか「この6人じゃなければならない!」という確信に変わり、あらためて新しいKIRINJIの船出に惜しみない拍手を贈ることが出来た。
その初ワンマンでも披露された新曲を中心に作り上げられたのが、ニュー・アルバムが『11』だ。理科室を舞台にした甘酸っぱい、だけどちょっと奇妙な肌触りの青春ソング「だれかさんとだれかさんが」、不夜城を舞台にしたエキゾチックなエロティックな「雲呑ガール」や、コトリンゴがメイン・ボーカルを飾る掌編ミステリーのような逸曲「fugitive」、〈金も御国も神様も 他人の夢のツギハギだ〉と拝金主義を憂うようなバラード「ジャメヴ デジャヴ」と、街の光景や時代をシニカルな視点で切り取り、日常のいびつさや歪みをあぶり出しながら、上質なユーモアに満ちたストーリーとして仕立てあげていく〈高樹ワールド〉は、この6人編成になって鳴りを潜めるどころか、ますます濃密さを増している。
そして、冒頭に引用したプロローグ「進水式」と、爽快なエンドロールのような「心晴れ晴れ」の、希望に満ちた清々しさを感じさせる──真っ白な船体を輝かせながら海原を進む客船と、そのまわりを自由に飛びながら並走するカモメのように、対になった2曲の美しさ。
さまざまな人たちのさまざまな想いを抱えながらも、力強く進んでいく大きな船。その進路に残った真っ白な波跡のように、美しくも儚い聴後感なんかも与えてくれる、優れたポップ・アルバムだ。
KIRINJI official website
http://natural-llc.com/kirinji/
KIRINJI「進水式」 MV
KIRINJI TOUR 2014
9月23日(火・祝)渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
9月27日(土)仙台 darwin
10月4日(土)金沢 AZ
10月5日(日)神戸 SLOPE
10月11日(土)鹿児島 CAPARVO HALL
10月13日(月・祝)長崎 DRUM Be-7
10月25日(土)京都 磔磔
10月26日(日)岡山 IMAGE
11月3日(月・祝)札幌 PENNY LANE 24
11月6日(木)名古屋 CLUB QUATTRO
11月7日(金)梅田 CLUB QUATTRO
11月9日(日)福岡 DRUM LOGOS
11月15日(土)東京 昭和女子大学 人見記念講堂
詳しくは KIRINJI official website をご参照ください。