君は「イエス」と言い
僕は「ノー」と言う
君は「ストップ」と言い
僕は「ゴー」と言う
オー・ノー!
君は「グッドバイ」と言い
僕は「ハロー」と言うのだ
「ハロー、ハロー」
僕には何故君が「グッドバイ」と言うのかわからない
ポップなメロディーに乗せた「ハロー・グッドバイ」は、ビートルズが1967年11月に発表した16枚目のオリジナル・シングル曲である。
最高傑作との呼び声も高い「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を発表した後、ビートルズのメンバーは個人行動を加速化させていった。
そして世界は、紛争と対立の中にあった。国家と国家が、人種と人種が、世代と世代が激しい自己主張を繰り返していた。
そんなある日、後に「ビートルズ・シークレット・ヒストリー」を執筆することになるアリステア・テイラーはポールの自宅に遊びに行った。そして、彼はこうポールに尋ねたのである。
「なんでそんなにたくさん曲のアイディアが出てくるんだい?」
ポールは、答えるかわりに、アリステアをダイニングルームへと誘った。そこにはハーモニウムが置いてあった。手彫りの彫刻が施されたハーモニウムは、彼がインドから持ち帰ったばかりのもののようだった。
「僕が何か歌詞を歌ったら、その正反対の言葉を叫んでみてくれよ」
ポールがそう言うと、実験が始まった。
僕が「高い」と言うと
君は「低い」と言い
君が「何故」と言うと
僕は「わからない」と言う
オー・ノー!
君は「グッドバイ」と言い
僕は「ハロー」と言うのだ
「ハロー、ハロー」
僕には何故君が「グッドバイ」と言うのかわからない
「ハロー・グッドバイ」はそんなふうにして出来上がった曲だ。
この曲に関して、辛らつなコメントを残したのがジョンだった。
「3分間の反駁と無意味な言葉の羅列に過ぎない」
ジョンからすれば、明るくポップに「対立」を歌うポールが我慢できなかったのかも知れない。そしてジョンは、この「ハロー・グッドバイ」に反駁するように、この曲を書くことになる。
僕は彼で
同じように君は彼で
同じように君は僕で
僕らはみんな一緒なのさ
そう、ジョンは「アイ・アム・ザ・ウォルラス」を書いたのだ。
対立を際立たせたポールと、同化を訴えたジョン。どちらも僕らが暮らす人間社会の側面なのだろう。
だからこそ、「ハロー・グッドバイ」のシングルのB面には「アイ・アム・ザ・ウォルラス」が収録されているのだ。
ジョンとポールがビートルズというレコードの表と裏であるように、多くの議論と対立は、探し出すべき答えの両面であることが少なくない。
2015年の日本。
ビートルズを聴いて育ったシンガーたちは、どんな歌を歌うのだろうか。
*このコラムは2015年7月に公開されました。
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