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リーダーであることをやめたジョンの、たったひとりのベッドイン

2024.12.09

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アルバムの1曲目はどの曲にしようか。針を落とすレコードの時代には、今よりずっとずっと大切な問題だったはずである。ビートルズが発表してきたアルバムの1曲目は、誰が歌ってきたのか。

『プリーズ・プリーズ・ミー』(1963)では、ポール・マッカートニーが歌う「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」
『ウィズ・ザ・ビートルズ』(1963)では、ジョンが歌う「イット・ウォント・ビー・ロング」
『ハード・デイズ・ナイト』(1964)では、ジョンとポールが歌う「ハード・デイズ・ナイト」
『ビートルズ・フォー・セール』(1964)では、ジョンとポールが歌う「ノー・リプライ」
『ヘルプ』(1965)では、ジョンが歌う「ヘルプ」
『ラバーソウル』(1965)では、ポールが歌う「ドライヴ・マイ・カー」

ビートルズがアルバムの1曲目は、常にジョンかポールの歌声で始まっていたのである。

だが、1966年に発表された『リボルバー』では、ジョージの歌う「タックスマン」が1曲目に収められている。2曲目はポールの歌う叙情的な「エリナー・リグビー」が続き、ジョンが歌うのは、3曲目の「アイム・オンリー・スリーピング」である。

ジョンはけだるそうに歌い出す。

♪朝早く目覚めた僕は
頭を起こし
まだ欠伸をしている♪



ジョージが税務署を皮肉り、ポールが教会で寂しく死んでいった孤児を悼んだ後、である。前作『ラバーソウル』で「ガール」、「ノルウェイの森」という名曲を書いたことで達成感を感じてしまったのか、気が抜けてしまう者もいるだろう。

とにかく、眠い、寝たいのだ、と歌詞は続くのである。

♪頼むから起こさないでくれ
嫌だ、揺すらないでくれ
ひとりにしといてほしい
僕はただ眠てるだけじゃないか♪


この歌には、様々な解釈がある。

実際、ジョンはベッドが好きだった。本を読むのも、テレビを観るのも、ギターをつまびくのもベッドの上が好きだった。そんなジョンを怠け者だと言う人間もいたのだろう。ジョンは歌詞で反論するのだ。

♪誰もが僕を怠け者だと
考えているらしい
どうでもいいさ
おかしいのはみんなの方さ
あんなスピードで
どこかしこと走り回ってる
そんな必要などないと
気づくまでね♪


それは目まぐるしいツアーの中、ジョンの目に映った社会なのかも知れない。

だが、この観察者の態度は、翌1967年に発表される『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に収録される、ポールの作品「フィクシング・ア・ホール」に引き継がれることになる。


ポールは心の平静を脅かす対象を「穴」と呼んだ。そこから雨が入り込んでくるのだと。そして雨漏りを修繕した部屋の窓から、外の世界にいる人々を見下ろすのだ。

♪あそこに立っている人たちを見てごらん
答えの出ない言い争いに明け暮れる人たち
何故彼らは僕の部屋のドアをノックしないのだろう♪


ポールのそんな歌声に呼応するのは、ジョンが歌うこの部分である。

♪窓辺で起こりつつある世界に
この目を向けている
僕の時間を使ってね♪


ジョンとポールは、静かなる抗議、を始めたのだ、と指摘する声もある。そしてジョンのその態度は、ヨーコとともに行う「ベッドイン」につながっていく。

ジョンはもう不満に大声をあげシャウトする若者ではなかった。彼は静かに抗議する者になろうとしていたのだろう。

そしてそれをフォローするジョージは、ジョンの歌声に複雑な処理を施したギターソロを添えた。

彼は一度録音したギターソロを逆回転させ、その逆回転することで聞こえる音を楽譜に落とし、今度はその楽譜通りにギターを弾きなおし、その弾きなおしたギターソロをさらに逆回転させることで、不思議な雰囲気を出そうとしていた。

ビートルズがレコーディングに時間を使いたいと思うようになるのも、当然だったのである。

ビートルズ『リボルバー』
Universal

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