ビートルズにとって最後のレコーディング・アルバムとなった「アビーロード」に収められた「マックスウェルズ・シルバー・ハンマー」。
明るく、コミカルな曲に乗せられたブラックな歌詞だが、この歌に創作欲を刺激される人は多いようで、YouTubeにも数々の作品が投稿されている。歌の全体像を振り返るためにも、まずは次の動画を観てみよう。
ジョーンは奇妙な子で
家で形而上科学を勉強していた
夜遅く、試験管を手にひとりでいると
医学専攻のマックスウェル・エジソンから電話が入った
「映画に行かないか、ジョーン?」
だが、彼女が出かけようとしたその時
ドアをノックする音がした
そして、バン!バン!
ジョーンはマックスウェルの銀のハンマーによって殺されてしまうわけである。
その後もマックスウェルは学校の教師をはじめ、次々と殺人を犯していくわけであるが、まず、このマックスウェル・エジソンとは一体誰なのか。ポールは、どんな主人公を想定したのか、ということになる。
もちろん確証はないのだが、マックスウェル・エジソンはふたりの科学者の名前を掛け合わせたものではないか、と言われている。
ひとりは、トーマス・エジソン。いわずと知れた20世紀の発明王だ。
もうひとりは、ジェームズ・クラーク・マックスウェル。古典電磁気学を確立し、マックスウェルの定理で有名なイギリスの理論物理学者である。
ポールのこの歌への思い入れは強かったようで、『ホワイト・アルバム』でのセッション、『ゲット・バック』でのセッション、そして『アビーロード』でのセッションと、実に3度の録音を経てこの曲を完成させている。
そこまでして、ポールがこの曲をレコーディングしたのは何故なのだろうか。
『アビーロード』でのセッションで、この曲を録音した時、ジョンは不在だった。ジョンは、少し前にスコットランドで起こした自動車事故のため、入院中だった。そんなこともあってか、この歌が当時のジョンとポールの不穏な距離感を反映している、という説もある。
歌の最初に登場するジョーンは、ジョンの女性形で、ヨーコのことを比喩しているのではないか、というのだ。そして、それを裏づけるのが、マックスウェルの仮説<マックスウェルの悪魔>である。
ふたつの部屋があると、する。
そしてそのふたつの部屋には、窓があり、分子が行き来できるとする。
そこに、仮に<悪魔>と名づけた存在が登場する。
悪魔がふたつの部屋を観ると、特定の分子はAの部屋に、また別の分子はBの部屋に移動する、という仮説である。ヨーコのせいでビートルズが分裂危機にあった、と考えるなら、<悪魔>はヨーコということになる。
だが、歌の女神「マーサ」とともに曲を書いていた(コラム参照)とも言われるポールが、そんな私怨のために、何度もこの曲を録音したのだろうか、と考えると疑問符がつく。
そこで気になってくるのが2番の歌詞だ。
学校に戻るとマックスウェルはまた馬鹿を演じ
不愉快な光景は見たくない
教師をいらだたせる
授業が終わった後、居残りを命じられ
マックスウェルは待っている
「~過ぎになってはならない」を50回書きなさい
だが、女性教師が背中を見せると
マックスウェルがそっと忍び寄る
冒頭に紹介した動画でも、マックスウェルが黒板にたくさんの「私は~し過ぎになってはならない」という例文を書かされているシーンが出てくる。
確かに、偏った見方をし始めると、対立は生まれるものだ。
片方を好きだと思えば、もう片方は嫌い、となり、
片方を良いと思えば、もう片方は悪い、となる。
となれば、自分勝手な思い込みそのものが<悪魔>なのかも知れない。
最後にマックスウェルは、判決を言い渡そうとする判事に銀のハンマーを振り下ろすのだ。
P.S.
それとも、ポールは科学そのものを悪魔と呼んだのだろうか…
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