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今日、僕は新聞を読んだのさ、オー・ボーイ
いっぱしの地位に上り詰めた幸運な男の話
ニュースは悲しいもののはずだったが
僕は、笑うしかなかった
その写真を見たからね
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ジョンが実際、読んだのは1966年12月19日付のデイリー・ミラー紙だった。
そこには貴族院議員で、ギネスの遺産を相続したばかりのタラ・ブラウンが前日の12月18日、ロータス・エランを運転中、停車していたヴァンに衝突し、事故死したというニュースが掲載されていた。
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彼は車の中で飛んじまって
信号が変わったことに気づかなかったのさ
たくさんの人が立ち止まり、眺めていた
どこかで見覚えてある顔だったからね
でも誰もはっきりと
彼が貴族院の男だとは気づかなかった
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「車の中で飛んでしまった」というのは、ジョンの創作である。新聞記事を見て歌を書いていったら、そうなったのだとジョンは語っている。
だが、タラ・ブラウンを知る男なら、さもありなん、と思わせる一節だった。
タラ・ブラウンはロンドンの社交界では有名な男だった。ローリング・ストーンズのキース・リチャーズが長男に名づけたタラという名前はタラ・ブラウンから取ったものだったし、ビートルズのメンバーも彼とは顔見知りだった。そしてタラが行くところ、ドラッグはつき物だったのである。
しかし何故、ジョンは友人の死を笑ったのだろうか。
その謎を解くためにも、次の歌詞を追ってみよう。
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今日、映画を観たのさ、オー・ボーイ
英国陸軍が戦争に勝った場面
たくさんの人が顔を背けたが
僕は観ていなきゃいけなかった
その本を読んでいたからね
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ジョンは突然、映画の話をし始める。
そう、新聞記事と映画が同列に語られているのだ。
そして、知人の死を知って笑ったジョンは、他の観客が目を背ける戦争の場面でスクリーンに見入るのである。
この不思議な感覚は何なのだろう。。。
♪ 僕は君を興奮させたいのさ。。。 ♪
このフレーズがドラッグを連想させる、として放送禁止にしたラジオ局もあったが、果たして、そうだろうか。新聞、映画というメディアから入ってくる情報そのものが、興奮させるもの、と考えた方が自然なように思う。
そして不気味なオーケストレーションが始まる。
何も知らされずにスタジオに集められたタキシード姿の演奏家たちは、ふざけた小道具を身につけさせられた上、下の音から上の音へ、小さい音から始めて徐々に大きく、という指令をポールから受ける。その不気味な音の渦はどんどんと大きくなったかと思うと、突然、止まり、目覚まし時計が鳴るのだ。
さて、ポールの出番だ。
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起きて、ベッドから転がり落ち
髪に櫛をあてた
何とか階段を降り、お茶を一杯
見上げると、遅刻だった
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一転、歌は日常の生活空間へと移動する。
ということは、ジョンは夢の世界を歌っていたのだろうか。
それとも。。。
(次週に続きます)