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起きて、ベッドから転がり落ち
髪に櫛をあてた
何とか階段を降り、お茶を一杯
見上げると、遅刻だった
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僕は見た、僕は読んだ、と歌い出すジョンと違い、ポールはただただ、日常生活を描写していきます。
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コートを見つけ、帽子をつかみ
ぎりぎりバスに間にあった
二階へ歩を進め、タバコを吸った
誰かの話し声がして
僕は眠りに落ちた
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ジョンの歌が終わり、オーケストレーションを挟んで目覚まし時計がなり、そして始まったポールのパートは、こうして再び、眠りに落ちることで終わる。
そしてジョンのコーラスが始まり、オーケストラをバックに時空の旅をするように、歌は再びジョンのパートに戻るのだ。
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今日、僕はニュースを読んだのさ
オー・ボーイ
ランカシャーのブラックバーンには
4000もの穴が開いて
穴は小さいとはいうものの
全部でいくつ空いているのか
数える必要があった
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このニュースはデイリー・エクスプレス紙の1967年1月17日付けのコラム<far and near(遠近)>に載っていたものである。
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今じゃ、アルバート・ホールを埋めるには
どのくらいの穴が必要かわかっただろうよ
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コラムを読んで、「どのくらいの穴が。。。」と言ったのは、テリー・ドーランだった。テリーはアップル社の管理職を務めていた男だ。その言葉を拾い上げたジョンが「アルバート・ホールを埋めるのに」と返したのである。
だが、そんな何気ない日常の一場面の描写で、この歌が、『サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブバンド』の最後を飾る歌が終わっていいものだろうか。
だが、ここである曲を思い出すと、バラバラのパーツが見事、美しい絵として完成するのだ。
その曲は、同じ『サージェント・ペッパーズ~』の5曲目に収められた「フィクシング・ア・ホール」である。
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雨が降り込んでくる穴を直してる
僕のマインドがどこかへと
彷徨い歩くのを止めるためにね
ドアに走るひび割れを直してる
僕のマインドがどこかへと
彷徨わないようにね
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ポールはスコットランドにあった農場の雨漏りを比喩的に歌ったものだと話している。
だが、この歌も、「注射針で空いた穴を連想させる」として放送禁止にしたラジオ局があった。それだけ、ドラッグにナーバスになっていた時代だったのだろう。
それはそうと、ポールはこの歌で何を語ろうとしたのだろう。
歌詞を追ってみよう。
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そして、どうでもいいことなのさ
僕が正しかろうが間違っていようが
僕がどこにいようが
いる場所が正しかろうが
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1960年代。それはドラッグの時代であったと同時に、若者たちが東洋思想にのめり込んだ時代だった。『サージェント・ペパーズ~』のアルバム・ジャケットを見ても、そこには何人ものインドの聖者が姿を見せている。
実際、ポールは瞑想を生活に取り入れていた。ということは、この歌は、瞑想中の歌、と考えれば納得がいく。
雨、とは、雑念、邪念なのである。
ところで、「フィクシング・ア・ホール」の歌詞を訳す時、<mind>という単語をあえて、「マインド」と音訳しておいた。「ハート」の心ではないことを強調するためである。
マインドが静かになった時、ハートが現れる。
インドにはそんな教えがある。
そして当時の若者たちは、ピースを得るために、マインドに現れる雑念、邪念を消して、聖なるハートを求めたのだ。多くの者が安易にドラッグに走ったのもまた、事実だけれど。。。
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僕は君を興奮させたいのさ。。。
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ジョンの声が、雨が降り込んでくるように響いてくる。
来週は、この歌を原詩でもう一度、振り返ってみよう。
すると、驚くほど緻密にこの歌が構成されていることが見えてくるのである。
「A Day in the Life」
「Fixing A Hole」