ABC放送の取材クルーがスタジオに到着した時、ジミ・ヘンドリックスとバンド・メンバーはちょうど、15分にも及ぶブルース・セッション「ブードゥー・チャイル」を録り終えたところだった。
「演奏しているシーンをとらせてもらえないか?」
テレビ・クルーの注文に、ジミは二つ返事で答えた。
「オーケー。今のをEでやってみよう」
録り終えたばかりの曲のキーを変え、リズムを変えて演奏し直すというのである。「ブードゥー・チャイルド」(スライト・リターン)」が生まれた瞬間だった。
この曲のギターソロで、ジミはワウ・ワウ・ペダルを使用している。自動車のアクセル・ペダルのような装置を足で操作することによってトーンを変えることのできるこのエフェクターは、ジミ・ヘンドリックスやクリームでのエリック・クラプトンの演奏で、一気に人気イクイップメントとなる。
2015年。ギター・ワールド誌は、ワウ・ワウ・ペダルを使った名曲のランキングを発表したが、1位がこの「ブードゥー・チャイルド(スライト・リターン)」で、2位がクリームの「ホワイト・ルーム」であった。どちらも、1968年の作品である。
ああ
俺は山の際に立ち
この手の甲で
山を切り倒していくのさ
ああ
俺は山の際に立ち
この手の甲で
山を切り倒していくのさ
そして歌の主人公はその切り崩した山で、新しい島を作るのだと言う。何故なら、
俺は、ブードゥー・チャイルド
主はご存知さ
俺が、ブードゥー・チャイルドだってことをな
ジミはこの歌について、フィルモア・イーストのライブでこう語っている。「この曲は、ブラック・パンサーの国歌だ」と。
ブラック・パンサーは、1960年代後半に勢力を拡大していた黒人解放を目指す政治組織。日本では黒豹党とも呼ばれた。そしてブードゥーは、ブードゥー教のこと。ブードゥー教とは、西アフリカを中心に信じられていた民間信仰である。
クリームの「ホワイト・ルーム」におけるギターソロがワウ・ワウ・ペダルによってサイケデリックな色付けがなされたとすれば、ジミのギターソロは、より呪術的に響いたのである。
1970年9月6日。ジミ・ヘンドリックス最後のステージで、最後に演奏された曲はこの「ブードゥー・チャイルド」であった。それは彼がこの世を去る12日前のことである。そして彼の死後、この曲はシングル・カットされ、大ヒットを記録することになる。
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