1991年1月8日、火曜日。テキサス州にあるリチャードソン・ハイスクールの2時限目。欠席がちだった16歳のジェレミー・ウェイド・デルは、英語教師から事務室に行って欠席届をもらってくるように指示された。
戻ってきたジェレミーは黒板の前に立って発言した。「先生、僕はやりたかったことがあるんです」と言って、357マグナムを取り出し、自らの口にくわえ引き金を引いた。
そのニュースはある日、新聞に小さく掲載された。記事の隣には「華氏64度、曇り」の今日の天気があった。
復讐のためにこんなにも大きな犠牲を払って命を失った少年の記事が、そんな小さな記事で終わってしまうという事実に、パール・ジャムのエディ・ヴェダーは何かしなければと思い、「ジェレミー(Jeremy)」という曲を書いた。
ミュージック・ビデオの最初と最後に「華氏64度、曇り」の文字を配置したのは、結局は何も変わらないんだということを表現したかったのだという。
「ジェレミー」オフィシャル・ビデオ
君が逝ってしまっても世の中は変わらず続くんだよ。
だから、一番の復讐は生きることだ。
生きて、奴らより強くなって君の能力を示すことなんだ。
この曲はもう一つ、エディがサン・ディエゴの学生時代に遭遇した類似の事件もベースとなっている。
はっきりと覚えているさ
少年はいじめられていたんだ
それはほんの些細な無邪気なことのように見えた
だけど僕らはライオンを放ってしまったんだ
ライオンは歯ぎしりをして
女性の胸のくぼみに噛み付いた
どうして忘れられるだろう
彼からくらわされた突然のパンチを
まだ顎に痛みが残っているよ
無防備の中に落とされた
あの日のように
銃声を聞いたあの日のように
パパは愛情を示さなかった
少年はママがもはや身につけない衣服のようなものだった
邪悪な王ジェレミーが
彼の世界を支配した
今日ジェレミーはクラスで発言した
今日ジェレミーはクラスで発言した
マーク・ペリントン監督によるこのミュージック・ビデオのラストシーンは最初、事実に忠実に再現されていた。しかし、ジェレミーがクラスメートの前で銃を取り出し、口にくわえるというそのシーンはあまりにも過激だという理由で、MTV側からの要請でカットされた。
編集されたラストシーンでは、返り血をあびたクラスメートの描写が、かえってジェレミーがクラスメートに向けて発砲したかのように誤解されたりもした。
だがこのビデオは1993年、MTVビデオ・ミュージック・アウォードで、『ベスト・ビデオ・オブ・ジ・イヤー』を受賞した。受賞式の壇上で、エディ・ヴェダーはこんなスピーチを披露した。
「言いたいのは・・・もし、音楽がなかったら、俺は授業中に自分の頭をぶっ飛ばしていたかもしれない、ってことなんだ。音楽が俺を生かしておいてくれた・・・(中略)とにかく、音楽のパワーに感謝したい」(クロスビート1994年12月号より)
複雑な家庭環境で少年時代を送ってきたエディは、自分たちパール・ジャムの音楽は、いかなる境遇の子供たちをも見離したりはしないと、伝えたかったのかもしれない。
多くの力強いメッセージを歌にのせて、エディの叫びは今でも若者たちの心をつかんで離さない。
パール・ジャム『Ten』
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