TAP the DAY

ベルリンの壁の向こうから聞こえる歓声を背に歌ったデヴィッド・ボウイ

2016.06.06

Pocket
LINEで送る

デヴィッド・ボウイの訃報が流れたのは2016年1月10日、亡くなった翌日のことだった。
ロックンロールの新たな可能性を切り拓いた偉大なスターの死に、多くのアーティストや関係者、ファンが追悼のメッセージを発信したが、その中でも話題になったのがドイツ外務省からのメッセージだ。

グッド・バイ、デヴィッド・ボウイ。あなたは今、#ヒーローズ の中にいます。壁の崩壊に力を貸してくれて、ありがとう。
(ドイツ外務省Twitter公式アカウントより)


第二次大戦後、敗戦国となったドイツは西側を資本主義のアメリカ、イギリス、フランスに、東側を共産主義のソ連に占領され、西ドイツと東ドイツという2つの国に分かれることになる。
東ドイツ領内にあった首都ベルリンもまた東西で分断され、西ベルリンは東ドイツにポツンとある孤立した島のような状態になった。

西に比べて自由が少なく監視も厳しい東ドイツでは、不満を抱く国民が後を絶たなかった。
そんな彼らにとって格好の亡命先となったのが西ベルリンだ。
東ドイツは西への亡命を防ぐため、1961年に西ベルリンをぐるりと囲む巨大な壁を建造するのだった。

berlinwall

デヴィッド・ボウイがベルリンの地を初めて踏んだのは1969年のこと。
このときは音楽番組への出演が主な目的だったが、空いた時間にベルリンの壁も見に行ったという。

その後もツアー等で何度か足を運んでいたボウイは、1970年代後半にイギー・ポップとともに西ベルリンで暮らしはじめる。
イギリスやアメリカでは外を出歩くことすらままならなかったが、西ベルリンでは日用品を買いに出かけて騒がれるようなこともなく、久々にリラックスした日々を送ることができた。

ボウイはアメリカに戻るまでの数年間で『ロウ』『ヒーローズ』『ロジャー』という3枚のアルバムを制作する。
ブライアン・イーノとともに作られたこれらの作品は「ベルリン三部作」と呼ばれているが、この時代における代表曲の1つが「ヒーローズ」だ。

思い出すよ
壁のそばに立って
銃弾が頭上をかすめる中
キスを交わしたことを
何も崩壊しなかったかのように

この歌はベルリンの壁沿いにある監視塔の下でデートを重ねる恋人たちを描いたものだが、そのモデルについては諸説ある。
レコーディングしているスタジオの窓から見えたベルリンの壁の前でデートをしている男女を見てインスピレーションを得た、プロデューサーのトニー・ヴィスコンティが恋人と会っているのが窓から見えた、画家のオットー・ミューラーの作品「庭壁の間で愛し合う二人」にヒントを得た、などだ。
いずれにせよ、ベルリンという場所とその歴史が、デヴィッド・ボウイの創作行為に多大な刺激を与えたことには違いない。

そんなベルリンに変革の兆しが生まれたのは1985年のことだった。
この年、ソ連の書記長となったゴルバチョフが「改革」を意味するペレストロイカを提唱すると、その影響は東ヨーロッパの共産主義諸国にも広まり、共産主義からの脱却を求める声は勢いを増していった。

歴史が大きく動こうとしていた1987年6月6日、デヴィッド・ボウイはベルリンの壁を背にコンサートを催す。

davidbowie_berlin2

会場となった西ベルリンのプラッツ・デア・レプブリックには大勢のファンが集まったが、観客はそれだけではなかった。
壁を挟んだ東ベルリン側にも数千人の人たちが集まっていたのだ。
スピーカのいくつかは東側に向けられ、コンサートが始まると壁の向こう側から盛大な歓声、そして歌声が聞こえてきた。
その姿を見ることはできなかったが、彼らの存在はボウイの心を大きく揺さぶったという。
それは壁で隔てられた西と東がデヴィッド・ボウイの音楽を通じて1つになった瞬間だった。

「『ヒーローズ』をやったときはまさに賛美歌のようで、祈祷師になったかのような感覚だったよ」


僕らはヒーローになれる
たった1日だけなら




自由と壁の崩壊を求める東ドイツ国民の想いが実を結んだのは1989年11月9日のことだ。
ベルリンの壁は崩壊したその日、彼らは「ヒーローズ」になった。

このときのコンサートについて、デヴィッド・ボウイは2003年のインタビューでこのように振り返っている。

「あのときのことは決して忘れないだろう。自分がやってきた中でも最高に感動的なステージの1つだった。あのときは目に涙が浮かんだよ」



※デヴィッド・ボウイの発言はこちらのサイトからの引用です


デヴィッド・ボウイ『ヒーローズ』
ワーナーミュージック・ジャパン

Pocket
LINEで送る

スポンサーリンク

関連アーティスト

関連するコラム

[TAP the DAY]の最新コラム

このコラムへの感想・コメントを書く

Pagetop ↑