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男たちのバラード①〜あの時孤独な心を救ってくれた“至上の一曲”たち

2022.03.29

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男たちのバラード


傷つき疲れ果てた夜。屈辱に覆われた夜。孤独に耐え抜いた夜。辛い過去に囚われた夜。悲しみに暮れた夜。一人で泣いた夜。そして静かに復活を誓った夜……あの時救ってくれた音楽。あの時人知れず耳を傾けた自分だけの音楽。アーティストたちも同じ風景を見つめていたのだろう。題して「男たちのバラード」。この至上の一曲たちを打ちのめされた男たちに捧ぐ。(選曲/中野充浩)


エリック・クラプトン「River of Tears」
1998年の『Pilgrim』に収録された心に染みる1曲。クラプトンの長いキャリアの中でも、これほどまで哀しみの風景と寄り添うバラードを他に知らない(「Tears in Heaven」と混同注意)。いきなり泣きのギターで奏でられる2分弱のイントロ。その先に広がるのは「涙の川」だ。愛する人を失った時、男は何を想うのか。初めて聴いたのは真夜中の高速道路を走る車の中。偶然流れてきたのがこの曲だった。


ロジャー・ウォーターズ「Every Stranger’s Eyes」
1984年の『The Pros and Cons of Hitch Hiking』に収録された心に染みる1曲。あまりにも巨大になりすぎたピンク・フロイドを脱退したロジャーの初ソロ作は、眠りの中の旅路を描いたロードムービーのような音楽だった。The WallでもThe Final Cutでもない。一人の男のさすらいの風景。クライマックスで流れるこのバラードのタイトルは「ストレンジャーの瞳」。途中で泣き始めるギターはもちろんエリック・クラプトンだ。


ロイ・オービソン「In the Real World」
1989年の遺作『Mystery Girl』に収録された心に染みる1曲。実人生で妻を事故死、子供2人を火事で失ったオービソン。それからしばらくの間、男は家で引きこもりとなり、音声を消したテレビをじっと見つめ、夢の中で生き続ける日々を過ごす。ある日、親友ジョニー・キャッシュにこう呟いたという。「この悲しみとどう向き合っていいのか分からない」。人々の胸のうちにある傷ついた感情を、こんなにもドラマチックに儚い声で歌い上げたアーティストは他に誰もいない。


ライ・クーダー「The Dark End of the Street」
1972年の『Boomer’s Story』に収録された心に染みる1曲。ダン・ペン作のソウル・バラードもライのスライドギターとフィンガーピッキングが奏でると、たちまちロードムービーの風景の中に入り込む。歌はない。音だけの世界。そして荒野を一人さすらう若者は、時を重ねて成熟した大人の流れ者となった。


ゲイリー・ムーア「Picture of the Moon」
2001年の『Back to the Blues』に収録された心に染みる1曲。エリック・クラプトン同様、若い頃にデビューしていくつものバンドを渡り歩きながら自らの音楽を追求し続けたゲイリー。速弾きのギターヒーローとしてもてはやされた時期もあったが、本人の心はブルーズにあった。また「ヨーロッパやアイルランド的な旋律や歌詞で叙情性を強調しようと努めた」という泣きのギターが炸裂するバラードはギタリストの真髄の一つ。聴く者をメランコリックでロマンチックな世界へと誘う。


ドン・エイリー「Song for Al」
1988年の『K2』に収録された心に染みる1曲。知っている人は少ないと思うが、これを初めて聴いた時、胸が熱くなった(余談だが、1994年5月にレース中に事故死したF1ドライバー、アイルトン・セナ特番のエンディングで使用されていた)。エイリーはオジー・オズボーン、リッチー・ブラックモア、マイケル・シェンカーらとの仕事で知られる伝説のキーボード・プレーヤー。途中から泣きのギターが炸裂する。こんな弾き方ができるのはゲイリー・ムーアしかいない。


グラム・パーソンズ「Wild Horses」
フライング・ブリトー・ブラザースの1970年の『Burrito Deluxe』のラストに収録された心に染みる1曲。キース・リチャーズにカントリー音楽の良心と美学を教えた男グラム・パーソンズ(二人の友情は別コラムで触れてほしい)。そのキースが書いたカントリーバラードをストーンズよりも早くレコーディング。この孤高の旋律に泣いてほしい。グラムには物悲しく切ない想いを届ける特別な資質があった。キースは亡き友に言った。「俺の足は涙の川を渡ってずぶ濡れだった」



キース・リチャーズ「All About You」
ローリング・ストーンズの1980年『Emotional Rescue』のラストに収録された心に染みる1曲。キース流の、キースにしか歌えない気怠い一級のバラード。お前みたいなロクでもねえ奴とはこの先やってらんねえ。でも何で未練があるんだよ? アニタ・パレンバーグへの別れの歌。ミック・ジャガーへの愛想尽かしの歌。捉え方は何だっていい。この曲を自分のものにしたら、いつか人生のサウンドトラックとしてどこかで流せばいいのだから。


パート2はこちらから。







*この記事は2019年12月に公開されました。

【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
https://www.wildflowers.jp/profile/
http://www.tapthepop.net/author/nakano
■仕事の依頼・相談、取材・出演に関するお問い合わせ
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