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東京ドームで再び歌手として歩いていく意思を表明した美空ひばり

2016.04.12

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戦後の日本に彗星のごとく現れた歌手、美空ひばり。
1949年に12歳でレコード・デビューを果たすと、主演した映画『悲しき竹笛』の主題歌が大ヒット、それから数年間のうちに国民的なスターとなり、その後は日本の音楽界を常に第一線で牽引していった。

その活躍を影で支え続けていたのが、母の喜美枝だった。
マネージャーとして、プロデューサーとして、そして母としてひばりに付き添って尽力してきた。

そんな喜美枝が亡くなったのは1981年、まだ68歳だった。
しかしそれだけでは終わらず、翌々年には弟の哲也が、1986年には下の弟の武彦までもが、共に42歳の若さで亡くなった。
わずか数年で3人もの肉親を失うという深い悲しみの中で、美空ひばり自身の身体までもが次第に蝕まれていった。

そして1987年4月22日、ついに身体が限界を迎えることとなる。
足腰に痛みを感じながらも、それをスタッフに悟られないようにして、全国ツアーで四国を巡業していたひばりだったが、その日は足腰の激痛に耐えられなかったのだ。

紹介された福岡の病院に駆け込むと、痛みの原因は大腿骨の最上部、骨盤に当たる部分の細胞が壊死していてスムーズに動かなくなっていることがわかった。
本来なら立っていることもできないほど痛いはずだったが、そんな状態でも公演をこなしてきたことに医者は驚いたという。

ところが病気はそれだけではなく、肝硬変、そして脾臓肥大も判明した。
早急に治療に入らなければ命も危ない、そんな状態だということが明らかになったのである。

予定されていた公演は全てキャンセルされ、ひばりは療養生活に専念することになった。
入院中は一日でも早く回復しようと、完全に音楽を忘れて模範的な患者として治療に専念した。
その甲斐もあって徐々に身体は回復し、夏には退院することになった。

そんな折に舞い込んできたのが、翌年に完成予定の東京ドームでのコンサートだ。
5万5千人を収容できる国内最大規模のこの新しい会場は、美空ひばりが歌手として復活する舞台としては打って付けだった。

ひばりはコンサートを催す上で、花道を用意してほしいと主張した。
それは歩くことすら困難な状態を味わったからこそ、自分はまだ歩けるし、これから先も歌手としてまだまだ歩いて行く、そのことを観客に伝えたいという想いの現れだった。

緊急入院してからおよそ1年が過ぎた1988年4月11日、「美空ひばり東京ドームコンサート 不死鳥~翔ぶ! !新しき空へ」は本番を迎える。
しかし、ひばりの身体は万全には程遠いものだった。
ステージから一番近い部屋に用意された楽屋には医師と簡易ベッドが待機し、最悪の事態に備えて外では救急車もスタンバイしていた。

午後7時、5万人の大観衆の前に現れた美空ひばりは、以前より明らかに痩せ細っていたが、演奏が始まるとファンの心配を払拭させる素晴らしい歌声をドームに響かせた。
立っていることすら辛い状態でも表には一切出すことなく、およそ2時間半、ときには大きなアクションも交えながら全39曲を歌い上げていく。

最後を締めくくったのは、亡き弟の加藤哲也が作曲した「人生一路」だった。
その日はそれを「終わりなき旅」の一節から始めた。

苦しくとも 悲しくとも
終わりなきこの旅を
歌で貫かん

一度決めたら 二度とは変えぬ
これが自分の 生きる道
泣くな迷うな 苦しみ抜いて
人は望みを はたすのさ


3番を歌い終えると会場の中央にある白い花道が照らされた。
ひばりは観客の声援に応えながら、決意も新たに一歩一歩と進んでいくのだった。



翌日、各メディアは「美空ひばり完全復活」として、コンサートの大成功を報道した。
その年は全国をツアーで回り、10月には「川の流れのように」をリリース、まさに不死鳥のごとき鮮やかな復活劇となったのだ。

最後まで歌手としての道を全うすることを誓った東京ドームでの晴れ姿は、今なお多くのファンの目に焼き付いている。

しかしその間も容態は刻々と悪化していき、翌1989年2月7日の公演を最後に再び入院すると、再び復活してほしいというファンの願いも虚しく、6月24日に52歳の若さで人生の幕を閉じるのだった。

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日本コロムビア


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