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「スペイン革のブーツ」と「木綿のハンカチーフ」

2015.10.11

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ボブ・ディランと太田裕美。
ローリング・ストーン誌が選ぶ“歴史上最も偉大な100人のソングライター”において第1位となった男と、1976年に日本で(山口百恵をおさえて!)最も活躍した女性アイドルとの間に“ちょっと面白い話”があるという。
1964年、ボブ・ディランが23歳の時にリリースした3作目のスタジオアルバム『The Times They Are A-Changin’(時代は変る)』に収録された楽曲の中に「Boots Of Spanish Leather(スペイン革のブーツ)」という歌がある。
その歌詞では、恋人同士の手紙のやり取りが交互に展開ゆく。
当時、ディランにとっての最愛の女性といえばスーズ・ロトロ。
2ndアルバム『Freewheeling’』のジャケット写真でディランと寄り添って歩いている女性だ。
彼女がヨーロッパ旅行に旅立った時の実体験をもとにディランはこの歌を作ったのだという。

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「Boots Of Spanish Leather(スペイン革のブーツ)」/作詞作曲:ボブ・ディラン 訳:片桐ユズル

Oh, I’m sailin’ away my own true love
I’m sailin’ away in the morning
Is there something I can send you from across the sea
From the place that I’ll be landing?

おお、恋人よ、わたしは船出する
朝には船出してしまうのよ
海の向こうから送って欲しいものはないかしら
わたしが行く国から

No, there’s nothin’ you can send me, my own true love
There’s nothin’ I wish to be ownin’
Just carry yourself back to me unspoiled
From across that lonesome ocean

いいや、恋人よ、送って欲しいものはない
なんにも欲しいものはない
ただ汚されずに帰っておいで
あのさびしい海の向こうから

Oh, but I just thought you might want something fine
Made of silver or of golden
Either from the mountains of Madrid
Or from the coast of Barcelona

おお、でもなにか欲しいかと思って
銀とか金とかでできたものを
マドリッドの山や
バルセロナの岸辺から

Oh, but if I had the stars from the darkest night
And the diamonds from the deepest ocean
I’d forsake them all for your sweet kiss
For that’s all I’m wishin’ to be ownin’

おお、真っ黒な夜からとった星と 
深い海からとったダイヤモンドだって
君のやさしいキスのほうがいい
僕が欲しいのはそれだけだ

<中略>

I got a letter on a lonesome day
It was from her ship a-sailin’
Saying I don’t know when I’ll be comin’ back again
It depends on how I’m a-feelin’

さびしい日に手紙がきた
それは船出した彼女から言ってきた 
「いつ帰るかわからないわ」
「それはわたしの気分しだい…」

<中略>

So take heed, take heed of the western wind
Take heed of the stormy weather
And yes, there’s something you can send back to me
Spanish boots of Spanish leather

では気をつけて 西風に気をつけて
嵐の天気に気をつけて
そう、なにか送ってくれるならば
スペイン革のスペイン・ブーツ



一方、太田裕美が二十歳の時に唄った「木綿のハンカチーフ」といえば、昭和歌謡曲の洗礼を受けた世代にとっては“忘れられない一曲”ではなかろうか?
1975年の年の瀬(12月21日)に発売され、翌年のシングルチャートを一気に駆け上って総売上枚数150万枚を記録したヒット曲である。
作詞を元はっぴいえんどの松本隆、そして作曲は筒美京平という最強タッグによって産み出された“3分47秒の青春物語”に、当時の若者たちは自分を重ね合わせて胸を熱くしたという。
日本のポップス史において、作詞家・松本隆と作曲家・筒美京平が「どれほどの功績を残し、どれだけのヒット曲を生産したか?」については(ここでは)割愛させていただきます。

「木綿のハンカチーフ」/作詞:松本隆/作曲:筒美京平/唄:太田裕美

恋人よ 僕は旅立つ 東へと向う列車で
はなやいだ街で君への贈りもの 
探す 探すつもりだ

いいえ あなた私は欲しいものはないのよ
ただ 都会の絵の具に
染まらないで帰って
染まらないで帰って

恋人よ 半年が過ぎ 逢えないが泣かないでくれ
都会で流行(はやり)の指輪を送るよ
君に 君に似合うはずだ

いいえ 星のダイヤも海に眠る真珠も
きっと あなたのキスほど 
きらめくはずないもの
きらめくはずないもの

恋人よ いまも素顔で 口紅もつけないままか
見間違うような スーツ着た僕の
写真 写真を見てくれ

いいえ 草にねころぶ あなたが好きだったの
でも 木枯しのビル街
からだに気をつけてね
からだに気をつけてね

恋人よ 君を忘れて 変わってく僕を許して
毎日愉快に過ごす街角
僕は 僕は帰れない

あなた 最後のわがまま 贈りものを ねだるわ
ねえ 涙拭く木綿の
ハンカチーフ下さい
ハンカチーフ下さい



この曲の歌詞もまた、恋人同士の手紙のやり取りがベースになっている。
これは盗作ではなく、偶然に似たものでもない。
松本隆自身がディランの曲から“着想を得た”とハッキリ認めているのだ。
この2つの曲で決定的に異なるのは男女の立場である。
「スペイン革のブーツ」では、恋人を見送るのは男性(ディラン自身)だ。
それに対して「木綿のハンカチーフ」では、旅立つのが男性で、見送るのが女性である。
松本の描いた物語では、男性が東へと向かう列車で都会へ旅立つシーンから始まる。
そして残された恋人に都会で流行りの指輪を送ろうとする。
けなげな彼女は「ただ都会の絵の具に染まらないで帰って」と願う。
松本が下敷きにしたディランの「スペイン革のブーツ」では、女性(スーズ・ロトロ)が船でアメリカからヨーロッパへ旅立つ直前の台詞から始まる。
彼女が男に送ろうとするのは、金や銀のアクセサリーだ。
残されたディランは「Just carry yourself back to me unspoiled(ただ汚されずに帰っておいで)」と願う。
そして二曲共にクライマックスでは…恋人の心変わりが告げられる。

I don’t know when I’ll be comin’ back again
It depends on how I’m a-feelin’

「いつ帰るかわからないわ」
「それはわたしの気分しだい…」


一方の「木綿のハンカチーフ」でも…

恋人よ 君を忘れて 変わってく僕を許して
毎日愉快に過ごす街角
僕は 僕は帰れない


その言葉を受けて“待つ側”の主人公が、遠く離れた恋人に贈り物をねだる。
「西風に気をつけて」「嵐の天気に気をつけて」と恋人を気遣いながら、さり気なく「そう、何か送ってくれるならば…」とディランがねだったブーツ。
何とも言えない深い余韻だけを残して終わる手法は実に“ディランらしい”といわれている。
一方、松本が描いた歌詞のラストシーンで主人公の女性が最後にねだったハンカチーフは、日本人が好む「心の機微」を表現するアイテムとしてはパーフェクトと言えるだろう。
「スペイン革のブーツ」と「木綿のハンカチーフ」
現代のコミュニケーションツール(LINEやSNSなど)でやりとりしている恋人達が、この設定の中で“最後にねだるもの”があるとすれば…それは一体どんなものだろう?
そんなことを想像しながら、あらためてそれぞれの名曲を聴き比べてみるのも悪くはない。


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ボブ・ディラン『The Times They Are A-Changin’』

(1964/Sony)


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太田裕美『GOLDEN☆BEST』

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