TAP the ROOTS

ブルーにこんがらがって(前編)

2014.03.20

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「10年の人生を、2年かけて書き上げた曲」

ステージの上で、ディランは「Tangled Up in Blue」(「ブルーにこんがらかって」)について、そう説明している。

主人公はディラン自身であり、相手の女性は1966年に結婚し、1977年に離婚することになるサラ・ラウンズというのが一般的な見方だ。
ディランはサラとの関係を歌ったものではないと否定しているが、歌詞にも出てくるようにディランとサラが出会った時、彼女にはマリアという女の子がいた。

2人が離婚した原因はディランがバックシンガーの女性と浮気したから、とも言われているが、最大の原因はノーマン・レーベンという美術教師だった。
ノーマンはウクライナからの移民で、キュービズム美術と哲学を教えていた。そしてディランが彼の元に通うようになってからサラはディランが何を考えているのかわからなくなった、というのだ。

時間軸も人称も無視したような歌詞はノーマンの影響だった。ディランは新しい技法を手に入れた代償として、愛する妻を失うことになったわけだ。
そんな思いをディランは、さりげなくダンテに、そしてシェイクスピアに託している。

まずはその詩を見てみよう。
見終わった後、その秘密を一緒に紐解いてみようと思う。

1)
ある朝早く 太陽は輝き 俺はベッドに横たわり
すっかり変わったろうか まだ髪は赤いだろうかと
彼女のことを思った。
彼女の両親は、俺たちが一緒に暮らしても
絶対すぐ駄目になると言ったものだ
俺のママお手製のドレスなど好きにはなれないし
パパの銀行通帳には大した額がないだろうというわけだ
そして俺は道端に立ち尽くし
靴は雨でずぶ濡れになり
俺は東海岸を目指した
到着するまでに俺が支払った対価は神のみぞ知る
ブルーにこんがらかって

2)
ふたりが出会った時、彼女は結婚していたが
離婚は間近だった
彼女を救ってやったとは思うが
手口は少しばかり強引だった
俺たちはできるだけ遠くまで車を走らせ
西の外れで乗り捨てた
それが最善と同意して
俺たちは暗く、悲しい夜に別れた
俺が歩き去ろうとすると
彼女は振り返り、俺を見た
肩越しに彼女の声が聞こえた
「いつかまた、大通りで会いましょう。
ブルーにこんがらがって」

3)
俺はグレイト・ノース・ウッズで仕事を見つけ
コックとしてしばらく働いた
どうにも好きになれない仕事だったが
ある日クビを言い渡された
そこで俺はニューオリンズに流れ落ち
偶然にも職にありついた
漁船に乗り、ドラクロア沖でしばらく働いた
だが、その間も俺はずっと孤独で
過去は俺のすぐ背後で身構えていた
たくさんの女を見たが
彼女が俺の心から離れることはなかった
そして俺はどんどんと
ブルーにこんがらがっていった

4)
俺がビールを飲みに立ち寄ったトップレスの店で
彼女は働いていた
明るいスポットライトに照らされた彼女の横顔を
俺はずっと見つめていた
少しすると客が少なくなったので俺も席を立とうとすると
彼女が俺の椅子の後ろに立っていた。
「ズィミー、って名前じゃなかった?」
俺が小声でぼそぼそと呟くと
彼女は俺の顔を皺を読むように見つめた。
正直、彼女が屈み、俺の靴紐を結ぼうとした時には
少しばかり心が乱れた
ブルーにこんがらがった靴紐

5)
彼女はストーブに火をつけ 俺にパイプをすすめた
「挨拶もしない人かと思ったわ」と彼女は言った。
「無口なタイプかってね」
それから彼女は詩集を開き、俺に手渡した。
13世紀のイタリアの詩人が書いたものだ。
ひとつひとつの言葉は真実のように響き
燃える炭のように輝き
ページをめくるたびに飛び出してくる言葉は
魂の中、俺から君へ書き記したもののようだった。
ブルーにこんがらがって

6)
俺はモンタギュー通りで連中と一緒に
階段を下りた地下室で暮らしていた。
夜のカフェには音楽が流れ、革命の空気が流れていた。
だが、奴隷取引を始めると、彼の中の何かが死んでいった。
持ち物を全部売るはめになると、彼女の心は凍りついた。
そして結局、底が抜けると、俺は引きこもるようになった。
俺にできることといえば
空飛ぶ鳥のように、そのままやり続けることだった。
ブルーにこんがらがって

7)
だから俺は、帰ろうとしている
どうにかして、彼女のところに行くのだ
俺たちの知り合いたちも
今となっては幻のように思える。
数学者たち
大工の妻となった女たち
何故そうなったのかは俺にはわからないし
奴らの人生など、俺にわかるわけがない。
だが俺は、今も旅の途中で
次の場所を探している。
結局、俺たちはいつも同じように感じていたし
違う観点から同じものを見てきただけなのだ。
ブルーにこんがらがって。



この物語を、歌のままの時間軸で考えると、こうなる。

1)男は別れた女のことを思っている
2)ふたりが別れた事実と、また会うことになる彼女の予言が語られる
3)別れの後の男の旅。消えぬ彼女への想い
4)トップレスバーでの彼女との再会
5)彼女の家での出来事。詩集。深い縁の再確認
6)ブルックリンでの生活。堕ちていく仲間たち
7)彼女のところへ戻る決意

何となく聴くと聞けてしまうところがすごいのだが、この筋はかなり無理がある。
4)トップレスバーで再会し、5)彼女の家で深い関係になったふたりが何故、また別れてしまったのか説明がつかないのだ。
(唯一の合理的な説明は、トップレスバーで出会った彼女が、別人だとすることであるが)

時間軸の歪みをあえて直すとすれば、この物語は、4)から始まったのだろう。
主人公と彼女の出会いは、トップレスバーだった。
都会の輝きに魅了される田舎から出てきた無垢な若者の出会いだ。
偶然なのか、ディランの妻だったサラは、彼と出会う前、プレイボーイのバニーモデルだったことがある。

後編はこちらからどうぞ


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