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いつになったらこの世の中に収穫がもたらされるのだろう?ハーヴェスト・フォー・ザ・ワールド~アイズレー・ブラザーズ

2023.10.15

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収穫の秋、実りの秋。
10月は農作物の収穫を祝うことを起源とする祭りが、日本だけでなく北半球の世界各地でも行われる。信仰に関わる儀式も多く、今年の収穫を祝い豊作に感謝する。
しかし、実りある収穫が全ての人たちに訪れるわけではない。
そして「いつになったらこの世の中に収穫がもたらされるのだろう」と歌うのは、70年代にファンキーなサウンドで人気を博したソウル・グループ、アイズレー・ブラザーズだ。

彼らのキャリアは長く、結成は1950年代とされる。幾度かのメンバーチェンジや分裂を経て、今はロナルド・アイズレーとアーニー・アイズレーの2人となってしまったが、現役で活躍中だ。
当初は、ロナルドとルドルフ、そしてオーケリーの3人によるアイズレー兄弟のヴォーカル・グループとして活動、1962年にリリースされた彼らのヒット曲「トゥイスト・アンド・シャウト」は、ビートルズにカヴァーされて大ヒットした。

そして1966~69年の3年間モータウンに在籍した後、彼らは独立してT・ネック・レーベルを設立、1970年には弟のアーニーとマーヴィン、そして従兄弟のクリス・ジャスパーの3人が楽器担当として加入する。1973年にはヴォーカル3人と楽器3人という編成を強く打ち出したアルバム『3 + 3』を大ヒットさせ、アイズレー・ブラザーズは黄金時代を迎えた。

彼らはドゥービー・ブラザーズの「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」や、シールズ&クロフツの「サマー・ブリーズ」など、白人ロック・バンドの楽曲のカヴァーなども多く取り入れながら、カーティス・メイフィールドやスライ&ザ・ファミリー・ストーンらと同時代にあって、アイズレーズならではのファンク・スタイルを確立していった。

また、楽器の3人が加入する前の1964~65年頃、まだ無名だったジミ・ヘンドリクスが1年ほどツアー・バンドに参加していたことがあり、アイズレー家に居候していたジミの弾くギターを、当時まだ12歳だったアーニーが食い入るように見つめていたという。ジミの影響を強く受けたアーニーのギターもアイズレーズのファンク・サウンドには欠かせない。

そんな彼らの1976年に発表されたアルバム『ハーヴェスト・フォー・ザ・ワールド』は、6人による完全オリジナル曲だけで構成されたアルバムだ。表題曲の「ハーヴェスト・フォー・ザ・ワールド」は、アメリカのR&Bチャートでは9位に上るものの、ビルボード・チャートでは63位止まりだった。ところがイギリスでは、ポップ・シングル・チャートで10位に入る大ヒットとなった。

全ての赤ん坊と共に
みんなそれぞれが“種”なんだ
僕らの半数は満たされ、
半数の人々は満たされないでいる
愛は豊富に僕たちの中にあるのに
強欲がそれらを曇らせてしまうのさ
いつになったらこの世の中に
収穫がもたらされるのだろう

国家が“植えつけた”のは
利益ばかりを追求する社会
季節はめぐり
大きく“育つ”のは痛みだけ
もうみんなクタクタなんだ
いつになったら世界に
収穫がもたらされるのだろう



アーニーが奏でるアコースティック・ギターのカッティングと手拍子で刻むリズムが、彼らの奏でるいつものファンク・サウンドとは少し違って、オーガニックな雰囲気を漂わせている。歌詞にも「seed=種」や「plant=植え付ける」「grow=育つ」などの言葉を効果的に使いながら、彼らのメッセージを伝えている。

1985年には、ロバート・パーマーとデュラン・デュランのジョン・テイラーとアンディ・テイラー、シックのトニー・トンプソンの4人で結成されたパワー・ステーションによってカヴァーされた。シングル・カットはされなかったが、アルバムの大ヒットにより彼らのカヴァーでこの曲を知った人も多いのではないだろうか。

The Power Station (1985)

そして1988年には、イギリスのロックバンド、クリスチャンズによってカヴァーされ、イギリス国内で大ヒットした。アニメーションも取り入れたミュージック・ビデオは話題となり、歌詞のメッセージを的確に伝えている。

収穫の喜びは、人々の根源的な幸せと深く関わっている。それゆえに人々は秋になると収穫を祝い、来年の豊作を願うのだ。
しかし、いつになったらこの世の中に本当の意味での収穫がもたらされるのだろうか?
その後もこの歌は多くのアーティストにカヴァーされ、21世紀に入った今もなお私たちの心に強く響くのだ。







参考文献:レコード・コレクターズ増刊ソウル・マスターズ 株式会社ミュージック・マガジン

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