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「プカプカ」のモデルとなったのは激動の時代を駆け抜けたジャズ・シンガーの安田南だった

2024.04.02

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その昔、安田南というジャズ・シンガーがいた。
1960年代の前半から米軍キャンプなどで歌うようになったが、一時は俳優座養成所に籍をおいていたこともあった。

アングラ演劇の勃興期だった1960年代後半になると、自由劇場や演劇センター68/71(現・劇団黒テント)の舞台にも立った。

人気小説家だった瀬戸内晴美(現・寂聴)が連載エッセイで、「はじめて安田南の存在を知ったのは、歌手としてではなく、役者としてでもなく、とてつもなくチャーミングな女の子としてであった」と、雑誌に紹介したのは1971年のことだった。

つきあった男(もちろんセックスで)は七十人だとか八十人だとかケロリとして口にしているけれど、色情狂でもない。
横で見ていると、ちょうど靴でもはきかえるように男を変えているだけの話だ。
まだ宵の口に六本木を男の腕にすがってはだしで歩いている南に逢ったことがある。
新しい靴が痛くていやだからはだしになったというのだ。

安田南1のコピー
奔放で自由な女性としてその名が広まった安田南は、東京・青山にあるジャズ・クラブ「ロブロイ」などで歌っていた。
当時はまだレコードも出ていない状態だったが、ライブでの人気は高かったし実力も十分だった。

やがて時代の最先端をいくクールな女性として、『話の特集』や『ワンダーランド』(『宝島』の前身)といったサブカルチャー雑誌にエッセイを連載し、メジャーな女性誌などからも注目を集めていく。

安田南 ライブ モノクロ 寄り
同じ頃に大阪で活動していたザ・ディランⅡのデビュー・アルバム『きのうの思い出に別れをつげるんだもの』が、大阪のインディーズだったURCから発売された。
そのB面の1曲目に、「プカプカ(みなみの不演不唱)」という少し変わった歌が発表されている。
ちなみに、”不演不唱”には”ぶるうす”とルビがふってあった。

ヴォーカルはメンバーの大塚まさじて、作者としてクレジットされていた象狂象とは、これを期にシンガー・ソングライターとして活躍する西岡恭蔵のペンネームだった。
西岡恭蔵演劇センター68/71の大阪公演では安田南と共演したことがあったので、歌の主人公の「みなみ」ではないかと噂されることになった。


そしてザ・ディランⅡを抜けてソロ活動を始めた西岡恭蔵もまた、同じ年の7月25日にファースト・アルバム『ディランにて』を発表している。
そこで自ら「プカプカ」を歌ったのだが、”みなみの不演不唱”がタイトルからは消えていた。

安田南は1974年から作家の片岡義男と二人で二時間の深夜番組、FM東京系列で全国放送された「気まぐれ飛行船」に出演してパーソナリティを務めている。

深夜に流れる二人のノンシャランな「大人の会話」によって名前が全国区になり、ジャズ・スタンダードを歌ったアルバムも発売になった。
ところが1978年のある日、安田南はラジオ番組を無断で休んだまま、理由を告げることもなく姿を消してしまうのだ。

片岡義男は番組で「きっと、またぶらっと戻ってきてくれると思います」と呼びかけたが、彼女が表舞台に戻って来ることはなかった。
安田南のエッセイにはこんな文章が残されていた。

円熟した、などとは死んでも言われたくない、聞きたくもない。
わたしの歌はわたしの肉体とともに亡びるのが望ましい。
「うた」というものは、もしかしたら本来そんなふうなものだと思ったりもする。


こうして時代の移り変わりとともに安田南はいつしか忘れられていったのだが、「プカプカ」は繰り返し歌われているうちに、忘れられるどころか次々に新しい生命を注ぎ込まれていくことになる。

カウンター・カルチャーが台頭したこの時代に、新宿で「プカプカ」を歌い継いだのは役者やダンサーたちだった。

写真・井出情児
<このコラムは 2016年2月20日に公開されました。なお「プカプカ」の続編はこちらからもご覧いただけます>

(2)カウンター・カルチャーが台頭した70年代に「プカプカ」を歌い継いだのは役者やダンサーだ

(3)「プカプカ」を歌っただけでなくアンサーソングまで作った女優の桃井かおり

(4)石田長生が初めて日本語のブルースを感じたという西岡恭蔵の「プカプカ」」




安田南『サニー』
ユニバーサル ミュージック クラシック


西岡恭蔵『ゴールデン☆ベスト』
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