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「プカプカ」を歌っただけでなくアンサーソングまで作った女優の桃井かおり

2025.04.17

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サブカルチャーが台頭した1970年代に最も存在感があった男優が「原田芳雄」ならば、最も輝いていた女優は「桃井かおり」だった。

幼い頃から目指していたクラシックバレエの道を進むために、12歳でロンドンのロイヤル・バレエ・アカデミーに留学したものの、日本人の体型の限界を悟ってバレエをあきらめた桃井かおりは、帰国後に松竹ヌーベルバーグの問題作『日本春歌考』(1967年/大島渚監督)を観て、そこから芝居に目覚めたという。

芝居への情熱を抑え切れずに「文学座」の研究生になってまもなく、19歳の若さでATG映画『あらかじめ失われた恋人たちよ』(1971年/田原総一朗監督)のヒロインに抜擢されると、そこから時代を象徴する女優へと成長していった。

日活青春映画の終焉を飾った『八月の濡れた砂』で知られる藤田敏八監督の『赤い鳥逃げた?』(1973年/東宝)では、主演の原田芳雄の目にとまったことから相手役に選ばれた。

奇しくもこの映画の主題歌を歌っていたのが、「プカプカ」のモデルとなったジャズ・シンガーの安田南である。この出会いもまた、偶然の必然だったとしか言いようがない。

続いて黒木和雄監督の時代劇、ATG映画『竜馬暗殺』(1974年)で、桃井かおりは再び原田芳雄と共演するのだが、その頃に愛唱していた「プカプカ」についてこんなエッセイを書いている。

なんてほんとにいいじゃないか。
はじめて覚えた歌だって事もあるかもしれないけれど、とにかくわざとらしくて、いっしょうけんめいに、なにげなくやれる歌で、私みたいにかっこよしのさびしーいオンナには、なんか、とってもうれしいじゃないか。
いつだったか、お友達のハッポンちゃん(山谷初男さん)は、涙をポロポロさせながら、イヤに色っぽく”プカプカ”を歌って、私をひどくうらやましくさせたけれど、ハッポンちゃんはまだ歌ってるのかしらん。
私だっていつかは涙をポロポロさせながら、いやに色っぽくきっと歌ってみせようと思ってたんだ。 
(桃井かおり著「しあわせづくり」大和書房)


役者たちの間でどのように「プカプカ」が歌われていたのか、手に取るように伝わってくる文章だった。文中に出てくる山谷初男は70年代に異彩を放っていた役者で、『赤い鳥逃げた?』と『竜馬暗殺』の両作でも共演していた間柄にあった。

TBSのアナウンサーだった林美雄が企画して、“映画スターファン倶楽部”なる同好会を立ち上げて開催したコンサート、『歌う銀幕スター・夢の狂宴』が新宿厚生年金会館大ホールで行われたのは、1975年の1月19日のことだ。

綺羅星のような映画スターたちが得意のノドを披露したこの一夜かぎりのフェスティバルで、原田芳雄は「プカプカ」や「黒の舟唄」を歌った。そして桃井かおりは歌手としてのデビュー曲、「六本木心中」を歌っていた。

M1  菅原文太  「吹き溜まりの唄」
M2  中川梨絵  「雪が降る」
M3  原田芳雄  「プカプカ」
M4  原田芳雄  「早春賦』」
M5  佐藤蛾次郎 「モズが枯れ木で」
M6  原田芳雄  「黒の舟歌」
M7  桃井かおり 「六本木心中」
M8  宍戸 錠  「黒い霧の町」
M9  宍戸 錠  「ジョーの子守唄」
M10 石川セリ  「八月の濡れた砂」
M11 高橋 明  「なかなかづくし」
M12 あがた森魚 「昭和柔侠伝の唄」
M13 藤 竜也  「ネリカンブルース」
M14 藤 竜也  「任侠花一輪」
M15 菅原文太  「命半分ある限り」
M16 鈴木清順  「麦と兵隊」
M17 深作欣二  「赤とんぼ」
M18 渡 哲也  「東京流れ者」 
M19 渡 哲也  「望郷子守唄」 
M20 渡 哲也  「くちなしの花」

アルバムWATASHI桃井かおり

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桃井かおりはその後、ショーケンこと萩原健一と共演したテレビの『前略おふくろ様』がブレイクし、CMや舞台でも大活躍、高倉健と共演した『幸福の黄色いハンカチ』(1977年/山田洋次監督)では、第1回日本アカデミー賞助演女優賞を獲得した。

そして翌々年に主演したATG映画『もう頬づえはつかない』(1979年/東陽一監督)が、単館系のアート映画としては異例の大ヒットとなり、「ブルーリボン賞」や「キネマ旬報賞」「日本アカデミー賞」で主演女優賞に輝いたのだった。

その79年に桃井かおりは、歌手としても2枚のアルバムを発表していた。自分で全曲を作詞したことで自伝的な要素が強く出たオリジナル・アルバム、『WATASHI』のなかには明らかに「プカプカ」のアンサーソングとわかる「たばこ止めないの」という歌がある。


そして同じ年の11月に出した70年代の最後を飾ったライブ・アルバム、『KAORI MOMOI CONCERT』のラストナンバーは「プカプカ」だった。

涙をポロポロさせながら歌ったのかどうかまではわからないが、桃井かおりはひとつの時代を駆け抜けた証のように「プカプカ」で70年代にピリオドを打っていたのである。


<「プカプカ」にまつわるコラムは以下にあります>

(1)「プカプカ」のモデルとなったのは、激動の時代を駆け抜けたジャズ・シンガーだった

(2)カウンター・カルチャーが台頭した70年代に、「プカプカ」を歌い継いだのは役者やダンサーだった

(4)石田長生が初めて日本語のブルースを感じたという西岡恭蔵の「プカプカ」」

なお、映画を愛する者たちによる打ち上げ花火のようなイベントは、林美雄の番組“深夜パック”のエアチェック盤として残っています。

安田南『サニー』
ユニバーサル ミュージック クラシック


西岡恭蔵『ゴールデン☆ベスト』
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これで「プカプカ」にまつわる3回のコラムを終了します

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