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エルヴィス・コステロ──美しいバラッドの奥で燃える、静かなる怒り

2024.04.07

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ロンドンに生まれたエルヴィス・コステロだが、ルーツはアイルランドにあった。

父親のロス・マクナマスはアイルランド移民で、ジョー・ロスの楽団でシンガー/トランぺッターとして活動していた。ちなみに芸名の“コステロ”は、父方の祖母の旧姓に由来しているという。

父親の影響から小さい頃から音楽に囲まれた環境にあったが、中でもアイリッシュ・ミュージックは彼の音楽性のみならず、人間性を育む上でも大きな影響を与えた。

「アマチュア時代、クラッシュのライブはとうとう観に行けなかった。終わるのが遅すぎて、終電に間に合わないんだ。タクシー代を払える人たちのためのパンク。一体何なんだ、と思ったよ」

1977年、シングル「Less Than Zero」でデビューしたコステロ。

パンク・ムーヴメントまっただ中の時代にあって、ギターをかき鳴らして闇雲に怒りを暴発させるわけでもなく、ポップなメロディーと裏腹な醒めた視線で日常に生まれる怒りや哀しみを歌った。

一方でパンクにケルト音楽の要素を融合させたポーグスや、白人黒人混成でジャマイカのスカをパンクのアティテュードをもって演奏した、2トーン・スカのオリジネーター=スペシャルズなど、マイノリティから発露したパンク・バンドのプロデュースを手がけていった。

ビートルズ・マニアで、黒人音楽からカントリー、レゲエまでさまざまな音楽をバックボーンに持つコステロだが、その多様な音楽性をダイレクトに表現したのが、1989年発表のアルバム『Spike』だ。

ポール・マッカートニーとの共作曲「Veronica」が有名なこのアルバムは、ダブリン、ニューオーリンズ、ロンドン、ロスアンジェルスにて制作された。

ダーティー・ダズン・ブラス・バンド、アラン・トゥーサンが参加したジャズやファンクと、ドーナル・ラニーらアイルランドの音楽家が参加した楽曲が並ぶ構成は、19世紀からニューオーリンズに多くのアイルランド移民が移住してきた歴史的背景も浮き彫りにする。

その収録曲の「Tramp The Dirt Down」は、ブズーキやイーリアン・パイプの音色が印象的な美しいバラッドだが、その内容は辛辣だ。

俺は長生きしてやる
あんたが死んで土に埋められた時に
墓の上を踏みつけるために


コステロはこれまでにも、当時の首相だったマーガレット・サッチャーへの批判を歌に込めてきた。

弱者に対して厳しい締め付けを強いたサッチャリズムに、生活者の視点から発せられる言葉を、その時代のフォーク・ソングとして奏で、伝える。アイリッシュ・ミュージックが育んだコステロの歌の奥には、静かなる怒りが青く燃えている。

エルヴィス・コステロ『Spike』
ワーナーミュージック/1989年

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エルヴィス・コステロ「Tramp The Dirt Down」

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