もし瓶の中、時を貯めておけるなら
何よりも僕は
永遠の時が終わるその瞬間まで
日々の時を貯めておきたいと思う
君とただ永遠の時を過ごすために
美しいアコースティック・ギターのアルペジオをバックにそう歌い出される「タイム・イン・ア・ボトル」を書き上げたのは、ジム・クロウチが父親になる知らせを妻から聞かされた夜のことだ。
結婚生活が5年を過ぎようとしても子供のできない妻イングリッドは不妊治療にも通っていた。そして訪れたコウノトリ。その知らせを聞いた瞬間、ジムは驚いているようにも、怖がっているようにも、喜びに浸っているようにも見えた、とイングリッドは語っている。
スーパーマンのマントを引っ張っちゃいけねぇ
天に唾吐くんじゃないぜ
ローンレンジャーのマスクを引っ張るのもナシだ
そして、ジムには構わないこったな
ファースト・シングル「ジムに手を出すな」はそんな歌だった。
ジム・クロウチは片田舎の酒場のジュークボックスで流れているのが似合っているような、そんなシンガーだった。
4枚目のアルバムからカットされ、大ヒットとなった「リロイ・ブラウンは悪い奴」も似たようなイメージを彼に与えた。
そして彼は5枚目のアルバムを録音し終わり、ツアーに出た。
映画「ラスト・アメリカンヒーロー」の主題歌が、彼の新曲だった。成功は約束されたかのようだった。
そんな時、1973年の9月12日、ABCテレビが映画「シー・ライヴス」を放映する。この作品の中で流されたのが、冒頭で紹介した「タイム・イン・ア・ボトル」だ。
テレビ局にも問い合わせの電話が殺到した。この曲は前年に発表したアルバムの中の埋もれた1曲だったが、レコード会社はシングル発売を模索し始める。
そしてその月の終わり、大学町から大学町を回る、ジムたち一行を乗せた飛行機は墜落した。
5枚目のアルバム『アイ・ガット・ア・ネーム』は彼が亡くなった週に発売された。そして「タイム・イン・ア・ボトル」はジムの死から14週間後、チャートのナンバーワンに輝いた。
もし瓶の中、時を貯めておけるなら
何よりも僕は
永遠の時が終わるその瞬間まで
日々の時を貯めておきたいと思う
君とただ永遠の時を過ごすために♪
ジム・クロウチの歌は、音源として残され、いつまでも記憶という名の瓶の中で響き続けている。
(このコラムは2014年10月16日に公開されたものです)
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