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オペレイター/ジム・クロウチ ~たった1つの公衆電話に並ぶ孤独な隊列

2024.09.19

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一台しかない公衆電話の前には長い列が出来ていた。降りしきる雨の中、グリーンの兵隊服を着た州兵たちは無言で、我慢強く、自分の番がやってくるのを待っていた。ひとり一回、3分。それがここ、サウス・キャロライナ州兵基地の決め事だった。

突然の出来事だった。2週間以内に入隊せよ。ナショナル・ガードからジム・クロウチのところに召集レターが届いたのは1966年、彼がイングリッドとの結婚を控えた23歳の夏のことだった。

州兵の募集に応じたのは、もちろんジムだった。州兵なら遠くに飛ばされる心配もないし、勉強も、音楽も続けられるだろう。そう思ってのことだった。だが、狂ったような暑さの中、その通知はあまりに唐突だった。

「オペレイター、この電話をつないでほしい。あ、でも、マッチ箱に書いてあった番号が消えかかっていて読めないのさ。彼女はロスに住んでいる。俺の友達だったレイとね……」


電話を待っている間、楽しい会話が聞こえてくることはなかった。毎回毎回、何十人もの愚痴を聞き続けていれば、いざ自分が受話器を取った時、自然と暗い声が出てしまう。

ジムはこれまでイングリッドと交わした会話を思い出した。食事が最悪だ。確か、それが最初の感想だった。イングリッドが作ってくれるパスタの味が恋しかった。

父が亡くなったわ。イングリッドからそう聞かされたのは、二度目の電話だった。それからの電話は、よく覚えていなかった。だが、どうせ覚えていて嬉しい類の話ではなかった。

「でも、世の中、そんなものだろ? もう、忘れたよ。だから、もし彼女の番号が見つかったら、教えてほしいんだ」


それでも、今電話をしてる奴とくらべれば、自分はまだマシな方なのだろう、とジムは思った。少なくとも彼は「ディア・ジョン・レター」を受け取ってはいなかった。

「愛するジョン」や「愛しいジョン」で始まっていたはずの手紙が突然、「親愛なるジョン」に変わる時、手紙の最後には必ず別れの言葉が綴られていた。

「オペレイター? もう、忘れていいよ。ありがとう。あんたは親切な人だ。10セントはとっといてくれよ」


「知ってるかい?」
ジムの後ろに並んでいた州兵が、電話の受話器を置いたばかりの男を見ながら言った。
「奴はこの週末にここを離れて、ベトナムに向かうらしいぜ」

雨は降り続いていた。そして州兵たちは、無言で自分の番がやってくるのを待っていた。


1972年にリリースされたジム・クロウチの2ndシングル「オペレイター」は、州兵時代の実体験を元に書かれた歌だ。基地で不安な日々を送るジムだったが、結局「ディア・ジョン・レター」が届くことはなく、イングリッドとの関係はジムが亡くなるまで続いている。

余談だが、ギター・メーカーのマーティン社が2000年に発売したジム・クロウチ・モデルのギターには、「オペレイター」の歌詞に因んで、ネックのところに10セントのコインが埋め込まれている。

コインの製造年は1973年、ジムが亡くなった年のものだ。


(このコラムは2017年1月12日に公開されたものに、加筆修正を施したものです)


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