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外は雨、猛吹雪。もう外へは出たくない 30年前のスプリングスティーンの叫び声が日本を直撃する

2024.09.22

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ブルース・スプリングスティーンがこの曲を書いたのは1981年のこと。後に大統領再選にブルースの曲を使おうとしたロナルド・レーガンが大統領になった年である。

♪死者の町に生れ落ち
地に足をつけた途端
最初の蹴りを食らった
打ちのめされた犬のように
人生の半分は、身を隠すようにして
生きることになる ♪


曲を書くきっかけとなったのは、映画監督ポール・シュレイダーからの依頼だった。『タクシー・ドライバー』などの脚本を手がけた後、映画監督となったポールは、ロックと宗教の狭間で揺れる青春像を描く『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』という映画を企画し、その主題歌をブルースに依頼してきたのである。

ブルースが書いた曲には「ベトナム」という仮タイトルがつけられた。この曲の主人公は、英雄になることなく、ボロボロになったベトナム戦争帰還兵だった。

♪ケサンでベトコン相手に戦ってる時
俺には兄弟がいた
まだ連中は戦ってるが
兄弟はもう、この世にはいない
奴にはサイゴンに女がいた
彼女に抱かれた奴の写真だけが残っている ♪


出来上がった曲は、ポール・シュレイダーの映画企画にはハード過ぎる内容だった。だがブルースは、依頼通り、曲にあのフレーズを使ってしまっていた。

♪U.S.A.で生まれた
俺はU.S.A.で生まれた ♪


曲のタイトルは結局、「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」となり、ブルースはポールに対して別の曲を書き上げた。それが「ライト・オブ・デイ」で、この曲はマイケル・J・フォックスとジョーン・ジェット主演の映画『愛と栄光の日々』の主題歌となった。


それにしても、「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」を愛国者の叫びだと思い込む人物とは、どういう神経をしているのだろうか。

1984年9月19日、大統領再選を目指すロナルド・レーガンは、遊説先のニュージャージー州(そこはブルースの音楽的ホームタウンだった)で、ブルースの名を叫んだ。

「アメリカの未来は、いぜんとしてあなた方の心の中、多くの夢としてあるのです。そしてそれは、多くの若者たちが賞賛する歌のメッセージの中にあります。ニュージャージーが誇るブルース・スプリングスティーンです!」


数日後、ピッツバーグのコンサートで、ブルースはこうつぶやいている。

「大統領がどのアルバムが好きなのかと考えてみたんだが。。。どうも『ネブラスカ』じゃなさそうだ」


ネブラスカは、当初「ベトナム」が収録される予定だったアコースティック・アルバムだ。そしてブルースは、その『ネブラスカ』に収録されている「ジョニー99」を歌ってみせた。自動車工場を失業した男が、酒に酔い、殺人を犯し、懲役99年を言い渡される物語である。

冒頭。「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」の歌い出し部分で、「身を隠すようにして」という表現がある。原語は「covering up」。

アルバム『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』には、ずばり「カバー・ミー」という楽曲が収められている。ブルースが大好きなドナ・サマー向けに書いた曲である。

♪タフな時代さ どんどんとひどくなる
ラフ(荒んだ)な旧世界は どんどんとひどくなる
俺を守って(カバー)くれよ
ベイビー、俺は守ってほしいんだ ♪


アメリカの若者の夢の象徴とレーガンが呼んだブルースは、そう叫んでいるのだ。

♪外は雨、吹きつけるような雪
唸るような風の音が聞こえてくる
灯りを消し、ドアの鍵をかけろ
もう外へは出たくない ♪


1984年。オーウェルが予言した年。この年にブルースが歌った歌は、2024年、40年後の日本で、やけにリアリティをもって響いてくる。

*このコラムは2014年に書かれたものを一部加筆しました。よってタイトルは2014年当時につけられたものです。



ブルース・スプリングスティーン『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』
ソニー・ミュージックレコーズ

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