「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SCENE

アリスの恋〜シングルマザーの前進していく力を描くロードムービーの名作

2025.02.10

Pocket
LINEで送る

『アリスの恋』(Alice Doesn’t Live Here Anymore/1974)


これはあくまでも個人的な周囲の話だが、結婚したカップルの約半分は離婚しているように思う。子供がいないケースだと1〜3年程度、いるケースだと3〜5年(子供がまだ小さい)が多い。そして最近は再婚したという話も聞くようになった。世の中的には結婚する4組に1組は再婚だそうだ。

子供がいる人たちが再婚で結ばれる。子供がいる相手と一緒になる。そんな再スタートの形を「ステップファミリー」と呼ぶらしい。日本もこれからこういった家族が増えていくだろう。ちなみにシングルマザーに娘がいる、シングルファーザーに息子がいる方が、子供の視点からはステップファミリーは成立しやすいという。「同性の相手に自分の親を取られる」というライバル視や心配が少ないからだ。

『アリスの恋』(Alice Doesn’t Live Here Anymore/1974)を観ていて、そんなことを考えた。映画の主人公は35歳のシングルマザー。12歳の息子がいる。この場合はどうなのか?

主人公のアリスを演じたエレン・バースティンは、この時私生活でも離婚したばかり。脚本を読んで大きな共感を抱き、自立を目指す女性の姿に自らをダブらせたという。

70年代前半といえば、アメリカでもまだなかなか理解を得られなかったのがシングルマザーという生き方。それまで平凡な生活を送っていた主婦が一度は諦めた夢に向かって歩み始める。つまり「これが私の人生。男に捧げるためのものじゃない」。ロードムービーとしても男性のアシスト役でない存在感は、当時としては斬新な感覚だった。

バースティンはこの画期的な作品の監督を誰にすべきか、親交のあったコッポラに相談することにした。すると「『ミーン・ストリート』は観た?」と言ってマーティン・スコセッシを推薦された。後日対面した際、男の世界を描くのが好きそうな新人監督に「これは女性の映画。あなたにできそうかしら?」とバースティンが尋ねると、スコセッシは「分からないけど勉強して頑張る」と返答。バースティンはその虚飾のない誠実な対応に信頼を寄せた。

『アリスの恋』を貫くのはリアリティ、そして前進していく力だ。オープニングは『オズの魔法使』的な少女時代のノスタルジーが綴られるが、一変して横暴な夫との結婚生活で現実が始まっていく。アリスは若い時に結婚。今は反抗的な子供を育てながら主婦をしているが、夫との関係にもはや愛も絆もない。その夫が事故死すると、一時の悲しみは安堵感へと変わり、自己の再発見=歌手になる夢が蘇る。

故郷のモンタレーへ帰って夢を叶えようとするアリスは、息子を連れ立って車で出発。お金がないので、モーテルに泊まりながら、立ち寄った街のバーやクラブで歌って稼ぐプランを練る。しかし雇い入れてくれる店もなく、早くも挫折感を味わう。やっとのことで歌の仕事にありつくアリスだが、気を許したDVの男(ハーヴェイ・カイテル)のせいで辞めざるを得ない。

やがて歌ではなくウェイトレスの仕事に就くアリス。店の常連で牧場主の男(クリス・クリストファーソン)から気に入られるが、道中のこともあり一歩踏み出せない。それに歌手になることが目的の旅なのだ。一方、反抗的な息子は地元の女の子(ジョディ・フォスター)にそそのかされてトラブルを起こし、忙しい母親を困らせる。アリスは本当に夢を叶えることができるのだろうか。

映画のエンディングは、撮影当日まで決まらなかった。アリスが結婚したら、歌手になる姿は描けない。逆に夢を取れば、愛は描けない。するとクリス・クリストファーソンがアイデアを出した。「本当に彼女を愛しているなら、俺なら一緒についていくけどな」。この一言で男が牧場を捨て、アリスと結ばれて、彼女の夢に協力していくという結末が決まった。エレン・バースティンはアカデミー賞主演女優賞に輝いた。

次作『タクシー・ドライバー』で映画界に衝撃をもたらすスコセッシ監督は、この映画でいろんなことを学んだ。中でも牧場での撮影シーンは笑い話になっている。スタッフは牧場を借りるために牧場主である夫婦に金を払い、どこか他の場所に泊まってもらうことにした。しかし撮影がスケジュール通りに運ばず期限だけが迫った。延長を申し出たが、答えは頑なにノーだった。

急いでリビングで撮影していると、夫婦はスタッフの間に割り込んで撮影をずっと眺め始めた。「カット! もう一回」と監督が仕切ると、「今のがいいわ。それでいきましょうよ!」という夫婦の声で遮られた。スコセッシは周囲を見渡して言った。「こんな状況で撮影した監督って他にいるのかな」

予告編

『アリスの恋』

『アリスの恋』


●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

*日本公開時チラシ

*参考・引用/『『アリスの恋』』パンフレット、DVD特典映像
*このコラムは2019年3月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

★2つの大切なお知らせ★


【一夜限りのスペシャルライブが実現! 人気のチケットはお早めに!!】

TAP the POPが初ライブイベント『音楽愛』(ONGAKU LOVE)を開催します。
豪華6組の弾き語り&バンドが出演。さらにゲストを迎えたトークショー、
次世代の音楽シーンを担う新しい才能も紹介します。
二度とないアーティストの組み合わせは、誰かに語れる貴重な体験になります。

「もう何年も何十年もライブハウスに行ってない」
「生で音楽を楽しむことの興奮を取り戻したい」
……そんな人も大歓迎。“音楽愛”の復活を共に祝福しましょう!

TAP the POP 音楽愛 (ONGAKU LOVE)
2025.2.28 FRI @横浜 ReNY β
OPEN18:00/START18:30


▼出演
冷牟田竜之(ex東京スカパラダイスオーケストラ/Taboo)
山口洋 (HEATWAVE)
ショコラ&アキト(片寄明人/ GREAT3)
イエロースタッズ
THESE THREE WORDS(冷牟田竜之)
金子駿平
佐々木モトアキ
吉澤成友(YOUR SONG IS GOOD)


★チケット入手方法

※「通常チケット「スペシャルチケット」の2種類があります。

①通常チケット (人気上昇中につきお早めに!)
受付 : e+(イープラス)
受付期間 : なくなり次第終了
料金 : ¥6,600

▼通常チケットの購入はこちらから
https://eplus.jp/sf/detail/4257420001-P0030001P021001?P1=1221

②スペシャルチケット(リハ見学・記念撮影・サイン入りTシャツ・書籍・特設ページ名前入れなど数量限定)
受付 : CAMPFIRE(クラウドファンディング)
受付期間 : 2025年2月20日(木)18時まで
料金 : ¥8,000~¥50,000

▼スペシャルチケットの詳細・お申し込みはこちらから
https://camp-fire.jp/projects/view/811070

▼スペシャルライブイベント『音楽愛』について
https://www.tapthepop.net/extra/127354


【ご支援ご協力のお願い】

「音楽が秘めた力を、もっと多くの人々に広めたい」
「音楽が持つ繋がりや物語を、次の世代に伝えたい」
音楽コラムサイト『TAP the POP』は、今後の活動に向けてクラウドファンディングを実施中です。



豪華6組の弾き語り&バンドが出演する一夜限りライブの「スペシャルチケット」をはじめ、参加できない人のために、“ここでしか手に入らない”グッズや書籍のリターンをご用意しました。

この機会にぜひ❝音楽愛❞を一緒に育ててくれませんか。応援よろしくお願いいたします(下記の「音楽愛」ページで経緯や想いを綴りました)。

~リターンメニューのご紹介~
♪初開催ライブイベントのスペシャルチケット(数量限定/2月20日締切)
♪Tシャツなど7種の限定デザイン&ロゴ入りグッズ
♪約4,000本の原稿から厳選するベスト盤的書籍
♪ご支援いただいた全員の方を「音楽愛メンバーの証」として特設ページで名前入れ

▼ TAP the POPクラファン「音楽愛」ページ(CAMPFIRE内)
https://camp-fire.jp/projects/view/811070

●CAMPFIREでアカウントを作成してから(簡単にできます)、TAP the POPのクラファンページに「お気に入り登録」をよろしくお願いします。最新情報がいち早く届くのでオススメです。
●「音楽愛」に共感してくれそうなお友達やお仲間がいたら、TAP the POPのクラファンページをシェア・拡散してください。よろしくお願いいたします。



【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
https://www.wildflowers.jp/profile/
http://www.tapthepop.net/author/nakano
■仕事の依頼・相談、取材・出演に関するお問い合わせ
https://www.wildflowers.jp/contact/

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SCENE]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ