6本の弦を弾くだけで、感情を揺さぶるような音が響く。それがエレキギターの持つ最大の魅力だ。
1931年にジョージ・ビーチャムによって発明されたこの楽器は、やがてロックミュージックの代名詞となり、多くの若者たちの心を震わせてきた。
音楽のあり方が多様化した現代においても、そんなエレキギターの音でファンを熱狂させているバンドがいる。イギリスで結成された、ウルフ・アリスだ。
バンドのフロントマン、エリー・ロウゼルは1992年にロンドンで生まれた。
幼い頃から聖歌隊に入り、歌に親しんでいたという。
そして10代の時、彼女が生まれる前年に発売されたニルヴァーナの『ネヴァー・マインド』に出会う。
「私はそのアルバムの歪んだコードがひたすら好き。そこにある音楽が出す深い悲しみや強い感情も。それでいて、とてもパワーに溢れていてキャッチーでしょ。このアルバムに出会ってから私は、重くひずんだ音を愛するようになったの。」
(BELPNG Media 2015年6月25日 インタビューより)
すっかりロックンロールの魅力に取り憑かれたエリーは、14歳の時に詩と曲を書き始める。
そして18歳になると自らの曲を世に出そうと決意し、インターネット上にデモ音源をアップ。それを聴いた同年代のギタリスト、ジョフと共にウルフ・アリスを結成する。
しかし結成から2年間は、他のバンドメンバーが見つからず、二人体制での活動が続いた。エリーが理想とするひずんだロックサウンドを再現するには難しい状況ではあったが、ジョフやサポートメンバーたちとメロディアスなポップスを作り上げていく。
やがて、デジタルでの作品のリリースやライブハウスの活動を通して、ベースのセオとドラムのジョエルが加入。4人体制となったことで、ようやく「重くひずんだ音」を再現できるようになったのだ。
ライブを重ねていくにつれ、彼らは美しいメロディを激しいサウンドで鳴らすバンドへと成長していった。
結成から3年経った2013年、地元のインディーレーベルからリリースした、EP『Blush』の収録曲がラジオでオンエアーされたことから一気に注目を集める。
前のめりなドラムのビートから始まる「She」は、エリーの伸びやかな声とシャウト、そして重く歪んだギターが印象的なロックンロールだ。
彼女が憧れた「パワーに溢れていてキャッチー」なニルヴァーナのサウンドに近づきつつあったのである。
その後名門レーベルDirty Hitと契約し、UK フェスティヴァル・アワードでは新人賞にあたるベスト・ブレイクスルー・アーティストに選出。イギリス中の注目を浴びるようになった。
2015年に満を持してリリースしたファースト・アルバム『My Love Is Cool』は、4人によるバンドサウンドがより洗練されたものになる。
攻撃的でシニカルな歌詞に、激しく歪んだギターとシャウトに圧倒される「You’re A Germ」。
美しいメロディに、美しく厳かなバンドサウンドが光る「Silk」。彼女たちのルーツを、自分たちのオリジナリティに昇華させた瞬間だった。
アルバムは全英チャート2位を記録だけでなく、「Silk」は映画『T2 トレインスポッティング』の劇中歌として、イギー・ポップやアンダー・ワールドと共に作品を彩った。
カート・コバーンが鳴らしたエレキギターのサウンドは、10代だった少女の心を動かした。それと同様にエリーのギターサウンドが今の10代の若者を熱狂させたのである。
ロックンロールの遺伝子は、エレキギターの音によって現代にも受け継がれているのだ。