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クラッシュのジョー・ストラマーが地下鉄で日本人の若者に残した言葉

2023.12.22

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ロンドンの地下鉄の駅で偶然にカメラマンのハービー・山口がジョー・ストラマーと出会った時、瞬間的にとった行動とその直後に体験したエピソードを紹介したい。

1973年に大学を卒業した山口はすべての就職試験に落ちたのをきっかけに、「どうせプータローになるなら、イギリスでプータローになろう」とロンドンへ向かった。

自由に生きる可能性を求めてイギリスに渡ってからは、カメラマンになる夢を抱きながらも、ビザ取得のために役者をしたりしながら人生を模索していた。
そして勃興してきたパンクロックや、ニューウェーブのムーブメントに遭遇する。

新しい音楽が次々と生まれるエキサイティングな時代が始まった時、山口はその流れの中に身を置くことになったのだ。

経済的に厳しかった70年代のイギリスは不景気で、失業者が増えて将来への希望を見いだせない若者も多かった。
歴然と存在する階級社会や古い伝統にとらわれず、「やりたいことをやってもいいんだ、新しい自由な生き方を自分たちの手でつくるんだ」というのが、パンクを始めた若者たちの主張だった。

しかしパンクは不満や怒りから生まれたが、必ずしも暴力的なものではなかった。

僕の知る限り、ジョーは、パンク・ロッカーの中で、いちばんの紳士だったと思いますね。
中産階級の家に育ったけれど、社会的に弱い人間の心の痛みを知る人だったのではないでしょうか。
商業的な成功よりも、社会や環境に恵まれず、くすぶっている若者たちを勇気づけるメッセージを伝えたいと活動していましたから。


そして1980年代に入ってまもなく、山口は地下鉄の駅で偶然にジョー・ストラマーに出会う。

クラッシュの名前を音楽史に刻むことになったアルバム『ロンドンコーリング』を出した後だから、ジョーがまさに”時の人”になっていた頃のことだ。
スターとして特別に扱われることを拒否していたジョー・ストラマーは、移動にはいつも地下鉄を利用していた。

地下鉄セントラルラインの駅で、ジョー・ストラマーを見かけたのです。
プライベートな時間なので、撮影は控えましたが、こんな千載一遇な出会いは二度とないと思った僕は、思い切って 彼に話しかけました。
「写真を撮ってもよろしいですか?」
彼は意外にも、笑みを浮かべ撮影をOKしてくれました。
すぐに列車が来て、僕たちは同じ車両に乗り込みました。
列車に揺られながら彼が降りる駅まで4~5枚撮りました。
列車が駅で止まり、彼がホームに降りようとする瞬間、彼は僕に向かって言いました。
「撮りたいものはすべて撮るんだ! それがパンクなんだ!」


異国の地で目的を見失いがちだった山口にとって、その一言が心の支えとなったという。
カメラマンとして大成することにも、そのフレーズが影響を与えた。

自分たちが有名になって時代のヒーローに祭り上げられても、それまでと何も変わらない行動や態度によって、“ロック・スター”になることを避けてきたバンド、クラッシュらしいエピソードである。

録りたい音を全部録って3枚組の大作になり、サウンド面でも大きな変革が起きたアルバム『サンディニスタ』を出したジョーの姿勢もまた、2002年12月に亡くなるまで何一つ変わることがなかった。

『かまうもんか、俺はすごいんだ』と思って自分の信じる道を突き進んでいく、そんなジョーの姿勢こそがまさにパンクだったのだ。

オレは叩かれてきた、オレは捨てられてきた
だがオレは負けない、負けたりしない
オレはさらしものにされてきた、だけど成長してきた
そうさオレは負けない、負けたりはしない


山口はやがてコミュニティーの内側に身をおいて撮影したロッカー、ミュージシャン、アーティストたちの素顔のポートレートが高い評価を受けて、スナップ・ポートレート写真の第一人者として認められていく。

「パンクの精神を未来へのメッセージとして若者に伝えていくこと」が、ハービー・山口は天国のジョーが何よりも望んでいることだと考えている。
だからいまでも講演会やトークショーなどで、この時のジョーの言葉を人々に伝えているのである。



ザ・クラッシュ『ロンドン・コーリング』
SMJ






(注)ハービー・山口氏の発言、および写真は「雲の上はいつも青空」 第64話 『「あの頃 ロンドンで。』からの引用です。なお本コラムは 2015年12月22日に初公開されました。


<関連コラム>

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