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Extra便

ジョン・レノンが亡くなる数時間前に最後の写真を撮っていたアニー・リーボヴィッツ

2016.12.08

アニー・リーボヴィッツ──彼女の名前を聞いて一体何を思い浮かべるだろう?

あらゆるミュージシャンの表情をとらえたロックなカメラマン。映画スターや経済人たちセレブリティ御用達のカメラマン。最先端のファッションメディアで斬新なイメージを撮り続けるカメラマン。政治や戦争の代償を切り取るジャーナリストとしてのカメラマン。世界中を年中飛び回るスターカメラマン。そして家族や風景といった素朴な写真を愛するカメラマン。そのどれもが彼女の本当の姿であり、世界で最も有名な肖像写真家であることには間違いない。

アニーは1949年10月、大家族の三女としてアメリカのコネチカット州で生まれた。軍人だった父の影響で引越しが多く、そのたびに車に乗って移動した。幼い女の子は車窓というフレームを通して常に人々や風景を観察していたのだろう。ベトナム戦争の赴任でフィリピンにも移り住んだことがあるようだが、アニーは高校生になるとサンフランシスコへ戻った。

時は1960年代後半。シスコの街にはヒッピーが集い、愛の思想を世界に広げようとしていた。アニーは美術学校で写真を学ぶことになり、通りで反戦運動を撮ったり、アパートでロックミュージックに目覚めていった。ちょうどその頃、シスコではヤン・ウェナーが『ローリング・ストーン』誌を創刊させる。自由な編集方針で書き手たちに好きなことを書かせて、ロック・ジャーナリズムの礎を築こうとしていた。アニーはすぐに編集部を訪れ、自分を売り込んだ。

必死で仕事をしていると、ジョン・レノンのインタビュー撮影の機会に恵まれた。20歳という若さ、無名のカメラマンの自分。そんな不安はすぐに現場で吹き飛んだ。ジョンは彼女を一人の人間として変わらずに扱ってくれたという。数年後、チーフカメラマンとなったアニーは、『ローリング・ストーン』を舞台にあらゆるミュージシャンたちをフィルムに収めていく。ロック界のスターたちはいつも一緒にいるアニーをそのうち気にしなくなり、空気のような存在になったので、心を許して自由に写真を撮らせた。

しかし、ローリング・ストーンズの1975年のツアー同行は、周囲に猛反対された。そこにはドラッグの誘惑があり、ヤンに言わせれば「みんなヤク中になって帰ってくる」のがオチらしい。この頃のツアー先のホテルでの記憶が一切ないというキース・リチャーズは、アニーが撮った自分の姿を見つめながらこう言った。「俺が見えないものを見てる」。

一方で失敗もある。反核コンサートで意気投合していたブルース・スプリングスティーンやボニー・レイットやジャクソン・ブラウンらがスタジオに集まった時、アニーは平凡な写真しか撮れず、革命的な機会を逃したとベテランに怒られた。以来、被写体である人が何者であるかを伝えることを心掛けるようになり、一度見たら忘れられないような写真を残すことに成功。

例えば、フリートウッド・マックでは世界的な成功の裏でバラバラだったメンバーたちをベッドに上下方向で並べたり、映画『ローズ』の公開があったベット・ミドラーには、バラの花の絨毯を作って(1本1本トゲを抜いた!)寝かせたり、ブルース・ブラザースはベルーシとエイクロイドの顔が青く塗られたりした。

でも、一番有名なのはジョン・レノンとオノ・ヨーコの写真だろう。それは1980年12月8日のこと。二人が住むダコタ・ハウスのベッドでの撮影。脱ぐことに抵抗があったヨーコは服を着たまま横たわった。すると裸になったジョンがキスをして抱きしめる。アニーがその一瞬をとらえる。その夜、ジョンが死んだことを知った。この写真は追悼号の表紙として、何の見出しもつけずに印刷された。たった1枚の写真の力に、多くの人が涙した。

アニーはその後、ドラッグのリハビリを乗り越えて『ローリング・ストーン』誌を去り、1983年に『ヴァニティ・フェア』誌に移籍。ロックのイメージから脱却する。中でも1991年、映画スターのデミ・ムーアの妊婦姿ヌードは賛否両論を巻き起こし、発売禁止の事態や女性論争のきっかけを作った。また、1998年にはファッション誌『ヴォーグ』に移籍。奇想天外かつ高額予算なセットやロケで、著名人やモデルたちと独特な写真世界を創造。

それでもアニーは、家族や子供たち、親しい人たちの写真を撮る時間を大切にしている。老いた父の最期を撮り、深い関係にあったスーザン・ソンタグの晩年も撮り続けた。スーザンの勧めで1993年にサラエボに出向いた時は、死と向き合う人々の姿に胸を打たれた。帰国後に控えていた大スター、バーブラ・ストライサンドの撮影は、何の意味も感じなかった。

──そんなアニー・リーボヴィッツの展覧会「WOMEN」が2016年1月から世界順次開催される。ロンドン、東京、サンフランシスコ、香港、シンガポール、メキシコシティ、イスタンブール、フランクフルト、ニューヨーク、チューリッヒと巡る予定だ。

【東京開催のお知らせ】
2016年2月20日(土)~3月13日(日)
アニー・リーボヴィッツ「WOMEN:New Portraits」 世界巡回展
詳しくはこちら

アニーが撮った『ローリング・ストーン』の表紙たち
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話題になった『ヴァニティ・フェア』のデミ・ムーアのヌード
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ドキュメンタリーDVD『アニー・リーボヴィッツ/レンズの向こうの人生』
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*このコラムは2015年12月8日、2016年2月24日に公開されたものです。

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