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音故知新④〜“ロックンロール”と“ロック”の分岐点〜

2016.03.27

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そもそも「ロック」という言葉が「ロックンロール」と区別されて使われるようになったのはいつからだろうか?
諸説ある中で、アメリカでは“1965年7月25日にロックが誕生した”と言われている。
一体この日になにがあったというのだろう?


──1965年7月25日、アメリカのロードアイランド州で行われた第5回ニューポート・フォーク・フェスティバルに出演したボブ・ディランのスーテージを観ていた音楽評論家ポール・ネルソンは、その場で次のようなメモを残したという。

ディランの新しいスタイルにノックアウトされた。
彼がプレイした音楽は、最近聴いたあらゆるジャンルの中でも最もエキサイティングなものだった。
「そのギターを始末しろ!!!」
そこにいた観客は、ディランがバンドを従えてエレキクトリックギターで演奏したことに対して激しいブーイングを浴びせていた。
だが、その後に私がこれまで観たことがないようなドラマティックなことが起きたのだ。
その日のディランはバンドと共に数曲を演奏し終えて、あっさりとそのステージを降りてしまった。
ピーター・ポール&マリーのピーター・ヤーロウは、なんとか観客に拍手を促し、早々に演奏を切り上げたディランに何とか続けるように説得し、やがてディランが再びステージ登場することを場内にアナウンスした。
ニューポートフェスの創設者でもあるプロデューサー、ジョージ・ウェインが「本当に戻ってくるのか?」とヤーロウに尋ねた直後、アコースティックギターを持ったディランがステージに現れ「It’s All Over Now, Baby Blue(これで終わりさ)」を歌い始めたのだ。
ディランが過去のスタイルに対して決別しようとしている!
私はその姿、その歌声からすべてを察した。
歌が終わり…エレキギターからアコースティックギターに持ち替えたディランに対して、観客はようやく拍手をおくった。
その瞬間、悲しみにも似た何とも言えない空気がディランと観客の間に立ち込めていた。



この出来事があった以前からアメリカの音楽シーンにはエルヴィス・プレスリーもいたし、イギリスではビートルズやローリング・ストーンズがすでに活躍していた。
彼らは皆、カントリーやブルースを下地にしたロックンロールやR&Bなどのスタイルを演奏と歌に取り入れていた。
その流れと平行するように、古い時代から親しまれていたジャズやフォークも時代と共に進化の一途を辿っていた。
第二次世界大戦の前後から、各ジャンルで使用される楽器もアコースティックなものからエレキへと持ち変えられていった。
カントリーやブルースにおいては、楽器がエレキ化したところで本質が変わることはなかった。
ところが、これがフォークになると話は違っていたという。
基本フォークミュージックはアコースティックギターやバンジョーなどを使用し“電気楽器は使わない”のが伝統的な音楽表現だった。
1940年以降、フォークは“反近代主義”と“反商業主義”をかかげるメッセージ性の強い音楽ジャンルとして確立してゆく。
当時のフォークに傾倒するミュージシャンやファンにとって、エレクトリックギターはテクノロジーの象徴であり、大音量で演奏される音楽は歌詞が聴き取りにくい点で認めるわけにはいかなかったという。
そんな彼らにとって60年代に世界を席巻したビートルズの存在は、まさしく商業主義のシンボルだった。
こうして徐々に楽器のエレキ化が進む中、アメリカの音楽ジャーナリストたちは「ロック」というジャンル・言葉が生まれた瞬間を示す明確な答えを欲しがっていた。
そこで彼らが目を付けたのが60年代の初頭からフォークシーンで大きな注目を集めていたボブ・ディランだったのだ。
そのディランを“ロックの祖”とすることで、みんなを納得させることにしたのだ。
ディランならば当時最も人気のあるミュージシャンであることは明かであったため、この説明ならば格好が付き、何よりアメリカ人にとって“気持ちの良い答え”だった。


観客の期待を裏切るようにディランはバンドを従えてステージに現れ「Like a Rolling Stone」「Maggie’s Farm」など数曲を立て続けに演奏した。
彼の横で演奏していたマイク・ブルームフィールドのブルースギターなど、まさしくそのスタイルはロックそのものだった。
この日を境に「ロック」は、それまであったフォークのイデオロギーを抑圧し、商業主義にまみれながらも反体制的な価値観を主張するという矛盾を抱え込むジャンルとなってゆく。
史上最大規模の野外ロックフェスとして数々の伝説を生んだウッドストック・フェスティバルでトリを務めたジミ・ヘンドリックスは“歪んだ音色のエレキギター”でアメリカ国歌を高らかに演奏した。
それはアメリカの音楽ジャーナリストたちによって「ロック」というジャンル・言葉が確立された1965年の夏からちょうど4年後の出来事だった…。


これまでTAP the POPでは、今回のテーマ「ロックとロックンロールの分岐点」を知って読むと、さらに楽しめるコラムをいくつかご紹介してきました。
これを機に、是非こちらのコラムもあわせてお楽しみ下さい♪

【ディランが別れを告げたベイビー・ブルーの正体】
http://www.tapthepop.net/roots/37719

【Woodstock 〜ジョニ・ミッチェルが60年代“最後の夏”に捧げた鎮魂歌〜】
http://www.tapthepop.net/imanouta/34039

【さよなら、アンジェリーナ〜ジョーン・バエズの歌と共に辿るフォークの歴史〜】
http://www.tapthepop.net/news/29544

【The Times They Are A-Changin’〜変わりゆく時代、変わることのない歌のチカラ〜】
http://www.tapthepop.net/news/35377

【ロックンロールの種を撒いた男〜伝説のカントリー歌手ハンク・ウィリアムスの偉大な功績〜】
http://www.tapthepop.net/news/32172

【エルヴィス、キャッシュ、パーキンス、ルイスによる奇跡のセッション「ミリオンダラー・カルテット」】
http://www.tapthepop.net/story/20176

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このシリーズコラム・音故知新は、TAP the POPに登場するアーティストや楽曲にまつわる“物語”や“繋がり”を、より深く読んでいただくためのちょっとした基礎ガイドのようなものです。
音楽のジャンルというのは、その発祥のエピソードは調べれば調べるほど様々な説が複雑に入り組んでいます。
ここでは、その代表的なジャンルのルーツをなるべくサクっと読めるようにシンプルにまとめております。
少しだけお時間のある方は、発祥のきっかけとなった楽曲の動画と共にこの“音故知新”の小さな旅をお楽しみに下さい。
これまでご愛読いただいたTAP the POPの“あの記事”や“あのエピソード”も、より新鮮に読んでいただけるかもしれませんネ♪

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