ミュージックソムリエ

僕たちはこの曲を歌うたびにその日を祝福していたんだーキング牧師の誕生日を祝日に

2016.01.18

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アメリカでは、1月の第3月曜日はキング牧師記念日(Martin Luther King Jr. Day)だ。

キング牧師は、1963年にワシントン大行進にて行った演説「私には夢がある(I Have a Dream)」が有名で、黒人公民権運動とその非暴力による活動が評価され、1964年にはノーベル平和賞を受賞した。しかし、1968年わずか39歳という年齢で暗殺されこの世を去った。

そのキング牧師の功績をたたえて、1月15日の彼の誕生日を祝日にしようという運動は、暗殺された直後からあった。その祝日法案が初めて議会にかけられたのは1979年だったが、反対票が賛成票をわずかに上回り、不成立となった。

1980年9月、スティーヴィー・ワンダーはアルバム『ホッター・ザン・ジュライ』を発表した。
アルバムのラストに収録されている曲「ハッピー・バースデイ」で、キング牧師の誕生日を祝日にする法案の制定を訴えたのだった。スティーヴィーはその運動の中心人物となり、歌はアンセムとなった。

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11月、アメリカ合衆国大統領選挙で、キング祝日法案に反対の態度をとっていた共和党保守派のロナルド・レーガンが選出された。

しかし、10月から始まった「ホッター・ザン・ジュライ・ツアー」でスティーヴィーはライブのラストには必ず「ハッピー・バースデイ」を演奏し、会場全員で大合唱となり、運動は盛り上がっていった。
このツアーに最後まで出演していたギル・スコット=ヘロンが自伝で綴っている。

黒人のための休日が必要だと
アメリカ人の大半に認めさせ 口に出させるまでに
どれほどの闘いが必要かなんてあまり考えたことがなかった
にしても大した挑戦だ 十年も棚上げにされてた法案を通過させるため
スティーヴィはどれだけのことを
乗り越えなければならなかっただろう?

ブラザーが本気じゃないと疑ったことは一度もなかった
だがそれまでの十二年でどれだけの心が一つになった?
アメリカ人は大人にならなきゃいけないと本気で思ったやつがどれだけいた?
過去は去らねばならないと やつらを納得させることが他の誰にできた?


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翌年の1月15日、ツアーの合間だったスティーヴィー・ワンダーはキング牧師が夢の演説と大行進を行ったワシントン記念広場で大規模集会を主催した。寒空の下で5万人もの人が集まり、「マーティン・ルーサー・キングの日、我々の祝日!」と繰り返した。

そして、ワシントン大行進からちょうど20年にあたる1983年に、再度キング祝日法案が議会にかけられ、8月には下院で賛成338、反対90で可決された。10月には上院でも賛成78、反対22で可決、11月にレーガン大統領が法案に署名して、施行は1986年から1月の第3月曜日を祝日とすると制定された。

16歳でボブ・ディランの「風に吹かれて」をカヴァーし、初のソウルチャート1位を記録したことで、自身が同胞たちのオピニオンリーダーになりうるという確信をもったスティーヴィーは、それ以後ずっとポジティヴなメッセージを音楽にのせて発信し続けてきた。
そしてこの「ハッピー・バースデイ」で彼はとうとう偉業を成し遂げたのだった。
音楽が人々を平和に導く手助けができるということを、彼は証明したといえるだろう。

スティーヴィー・ワンダーは、「ハッピー・バースデイ」についてこう語っている。

「僕たちはこの曲を歌うたびにその日を祝福していたんだ。この曲を演る時はいつでもその実現を示していた。
でも、あくまでも誰かを洗脳しようなんていうつもりがあった訳じゃない、起ころうとしていることをうまく運びたかっただけなんだ」

僕にはどうしても理解できない
正義のために命を捧げてきた人間の
成し遂げた偉業を祝う日を
設けることができないなんて
こんな価値ある日を祝うことができないなんて
彼の描いていた夢が
はっきりと見えないような奴らには
彼の夢は単なる幻想としか思えないのさ
彼のとってきた態度が
我々の心からの賛歌をもたらしたんだ
平和のうちにマーティン・ルーサー・キングへの賛歌を
歌うべき時をもたらしたんだ

ハッピー・バースデイ・トゥー・ユー
ハッピー・バースデイ・トゥー・ユー
ハッピー・バースデイ



(ミュージックソムリエ 阪口マサコ)

参考文献:
『ギル・スコット=ヘロン自伝』ギル・スコット=ヘロン著 岩間慎一日本版監修 浅羽麗訳(スペースシャワーブックス)
『スティービー・ワンダー心の愛』ジョン・スウェンソン著 米持孝秋訳(シンコーミュージック)

スティーヴィー・ワンダー『Hotter Than July』
Motown

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