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山崎まさよしの「One more time, One more chance」をスタンダードにした映画、『秒速5センチメートル』

2014.10.16

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かつてはバンドのヴォーカリストとしてカリスマ的な人気を博した若者が、バンド解散後に創作意欲を失い、人里離れた田舎でキャベツを育てながら隠遁生活を送っている。

そんな主人公がひとりの少女との出会いから、新たな曲を生み出すまでを寓話的に描いた映画『月とキャベツ』(監督 篠原哲雄)は、シンガー・ソングライターの山崎まさよしが主演して、1996年末に単館系映画館で劇場公開された。

クライマックスで効果的に使われた主題歌「One more time, One more chance(ワン・モア・タイム ワン・モア・チャンス)」は、山崎まさよしにとって初のヒット曲になり、息の長いセールスを記録した。

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それから10年後、アニメーション映画『秒速5センチメートル』(監督・制作 新海誠)の主題歌として起用されたのを機に、「One more time, One more chance」はアニメファンに発見されることになる。

緻密に描かれた美しい画面がアニメファンの間で評判になり、『秒速5センチメートル』は7月にDVDが発売されてから徐々に浸透していった。

2007年のアジアパシフィック映画賞では「Best Animated Feature Film」を受賞し、中国や韓国、台湾、香港でも上映されたことからアジア各国にも知られ始めた。



CD未収録だった弾き語りヴァージョンが入った「One more time, One more chance『秒速5センチメートル』 Special Edition」は、通算22枚目のシングルとして2007年3月3日に発売されて、歌に対する評価は再び高まった。

ちょうどその頃、「One more time, One more chance」のカヴァーを収録したアルバムが、意外なところからロングセラーを記録していた。

クラブジャズユニットi-depのナカムラヒロシが、同じくi-depでボーカルを務めるCanaと結成したSotte Bosse(ソットボッセ)が、1990年代のヒット曲をボサノヴァやジャズ風にカバーした『Essence of life』は、インディーズながら若者向けセレクトショップ、ヴィレッジヴァンガードからブレイクしたのだ。

21世紀のカヴァー・ブームの一端を担うことになったそのアルバムには、「島唄」(ザ・ブーム)や「真夏の果実」(サザンオールスターズ)、「世界に一つだけの花」(SMAP)などが取り上げられていた。

男性シンガーの曲を女性がソフトに歌うことによって、歌詞やメロディの素晴らしさに、あらためて気がついたリスナーも多かった。

哀切なテーマが具体的な言葉と画によって、アニメファンや世代下の層にまで届くようになった「One more time, One more chance」は、そこからさらなる広がりを見せ始める。

YOUTUBEにオフィシャル動画として、弾き語りヴァージョンがアップロードされたのは、2008年12月8日だった。

それから足かけ6年かかって再生回数を伸ばし、10月上旬には遂に1,000万回を越える数字となり、今もその数を着実に伸ばし続けている。

「One more time, One more chance」は、いつまでも色あせないスタンダード・ソングが、時を超えることを証明しただけではない。

世界中の人たちからの書き込みがあるということから、今後は国境や民族を超えて、世界のスタンダードになる可能性も生まれてきている。



<歌詞に「♪いつでも捜しているよ どっかに君の姿を 明け方の街 桜木町で」とあるように、この歌はヨコハマを舞台にした歌でもあります。
あわせて「ヨコハマの歌〜煙草が似合う俳優達が歌い継いだブルースのルーツ〜」もご一読ください。

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