北アイルランドを代表するミュージシャンの一人、ヴァン・モリソン。
1966年にゼムを脱退した彼はソロに転向すると、『アストラル・ウィークス』や『ムーン・ダンス』など次々と歴史に残る傑作アルバムを生み出していった。
それらの作品ではヴァンの音楽的探究心により、ジャズやフォーク、R&B、カントリー、ケルト音楽など、様々なジャンルを取り入れるという試みが行われている。
そして1973年、そうした試みはステージ上へと移されることとなる。ヴァンは『ムーン・ダンス』のレコーディングに参加していたキーボーディストのジェフ・ラベスに声をかけた。
「ストリングとかそういった全部を連れて一緒にツアーをしないか?」
ヴァン自身が語ったところによれば、突然ライヴ活動に戻りたくなったのだという。しかし、ただアルバムと同じ演奏を再現するだけでは満足できない。そう考えたヴァンが出した結論が、大所帯のバンドによるツアーだった。
こうしてストリング・セクションやホーン・セクションを含む11人編成のバンド「カレドニア・ソウル・オーケストラ」は結成されたのである。
ツアーはカリフォルニアからスタートし、4月から7月まで4ヶ月に渡った。その間、ヴァンは常に新しい試みをしながら、自身の音楽を探求していった。
ジェフ・ラベスによれば「彼は過去の演奏を繰り返すようなことはしなかった。毎晩新しいものを創り出そうとしていたんだ」という。
翌1974年には、ツアーの中からロサンゼルスのトルバドゥール、サンタモニカのシヴィック、そしてロンドンのレインボー・シアターでの演奏を収めた2枚組のライヴ・アルバム『魂の道のり』がリリースされた。
原題は『It’s Too Late to Stop Now』、今さら止まることはできないという意味だが、このタイトルはコンサート中にヴァンが放ったフレーズからきている。
ソウルフルにアレンジされた「サイプラス・アヴェニュー」の終盤、音がやんで観客は終わったと思い盛大な拍手を送るが、ヴァンは再び歌い出す。かと思うとまた音がやむ。ジェームス・ブラウンさながらに、観客との駆け引きを楽しんでいるかのようだ。
すると観客の一人が「本気を出してくれ!」と叫ぶ。それに対してヴァンは「すでに出しているさ」と返答し、会場からは盛大な歓声が上がった。
そしてヴァンは「今さらやめられるか!」と叫んだのである。それは一生音楽を続けていくという決意表明のようにも聞こえる。
ヴァンによれば、このライヴ・アルバムはオーヴァーダビングによる修正を一切していないという。コンサートで実際に生まれた音を追体験できるのがライヴ・アルバムの魅力であり、そこに修正を加えてしまえば真実味が損なわれてしまうというのが、ヴァンの考え方だった。
『魂の道のり』は各メディアや音楽評論家たちから賞賛され、今でも最高のライヴ・アルバムのひとつとして度々取り上げられている。
そして、ヴァン自身も「ライヴ活動におけるある種の頂点だった」と振り返っている。
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