エイミー・ワインハウス、ヴィンテージ・トラブル、ブルーノ・マーズ、メイヤー・ホーソーン、そしてファレル・ウィリアムスなどに代表されるように、60年代ソウルのあたたかみのあるサウンドに回帰したような作品を聴かせるアーティストが、ここ数年に渡って広い世代に支持を集めている。今回紹介するリオン・ブリッジズは、そんなムーブメントの決定打となる存在といえるだろう。第58回グラミー賞 最優秀R&Bアルバム部門にもノミネートされ、その注目度はますます高まるばかり。今年1月には日本でもデビュー・アルバムが正式リリース。7月にはFUJI ROCK FESTIVAL ’16での初来日も決定した。
テキサス州フォートワース出身のリオン・ブリッジズは、現在25歳。少年時代からサザン・ソウルやゴスペルに接しながら育ち、学生時代にはダンスを専攻。その後、皿洗いの仕事をしながら、地元のバーのオープンマイクで歌い、サム・クックを彷彿させる歌声で評判を集めるようになる。
60年代のリズム&ブルースやゴスペルに根差したオリジナル曲を作りはじめ(デビュー・アルバム収録の、自身の母に捧げた「Lisa Sawyer」なども、当時から歌ってきたレパートリーだそう)、ステージでも披露するようになった彼に大きな転機が訪れたのは、オースティンのロック・バンド〈ホワイトデニム〉のギタリスト、オースティン・ジェンキンスがきっかけだった。ブリッジズのショーに圧倒されたジェンキンスが、その場でレコーディングとプロデュースを申し入れたという。
ブリッジズのソウルフルかつジェントルな歌声。その魅力を最大限に引き出すためにリボンマイクやアナログテープなど古い機材で録音はすすめられた。2014年10月、テキサスを拠点とする人気音楽ブログで紹介されると、十代半ばから三十代前半の若いリスナー層をターゲットにしたBBCラジオ1や、ニューカマーを多く発掘してきたNMEなどイギリスのメディアがすぐさま反応し、そこから一気に彼の歌声は拡散していった。
全米R&B/HipーHopチャート1位を獲得し、全米アルバム・チャート6位・全英アルバム・チャート8位を記録したデビュー・アルバム『Coming Home』を聴いて感心するのは、50年代後半から60年代初めあたりへと一気にトリップさせてくれるような、徹底したヴィンテージな音作りだ。少し霞がかった、夢のように美しい豊穣なサウンドは、レトロ・ソウルなんて呼ばれる作品も数多く出ている中でも群を抜いているのではないか。しかし、その音像の真ん中に立つリオン・ブリッジズは決して単なる懐古趣味には映らず、むしろ時代のもっともヒップなサウンドに触れるかのように瑞々しい化学反応を示しては、伸びやかに歌声を響かせる。それは、たとえばサム・クックやオーティス・レディングが残した音源から、当時の新鮮な空気や熱いほとばしる何かが新しく生まれる瞬間を感じ取った時の喜びに似ている──リオン・ブリッジズは、「レトロ」ではない「リアルタイム」のソウル・ミュージックを更新している。
official website
http://www.sonymusic.co.jp/artist/leonbridges/
http://www.leonbridges.com/
リオン・ブリッジズ「Coming Home」 MV
リオン・ブリッジズ「Better Man」 MV
リオン・ブリッジズ「Lisa Sawyer」 Audio
リオン・ブリッジズ「Smooth Sailin’」 MV
FUJI ROCK FESTIVAL ’16
7月22・23・24日(金・土・日)
詳細は http://www.fujirockfestival.com/ をご確認ください。
*本コラムは2015年6月22日に初出公開された記事に、加筆修正を加えたものです。