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【インタビュー】堂島孝平──華々しい20周年を締めくくる、ナチュラルに『愛を歌う』アルバム

2016.01.12

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18歳でデビューし、昨年活動20周年という節目を迎えた堂島孝平。コンスタントに作品を発表しながら、精力的にライブ活動を展開し続ける一方、自身の活動と並行してKinKi Kids、山下智久、Sexy Zone、太田裕美、藤井フミヤ、南波志帆、住岡梨奈をはじめとする多くのアーティストへの楽曲提供やサウンド・プロデュース、佐野元春『SOMEDAY』ライブのバンド・メンバーとしての参加など多彩なミュージシャンたちのセッション・ワーク、西寺郷太・藤井隆とのユニット〈Small Boys〉としての活動や、テレビ番組『オモクリ監督』では映像監督、さらに2014年公開の映画『さよならケーキとふしぎなランプ』では俳優として初主演を果たすなど多彩な活躍を見せている。

2015年2月には中野サンプラザにて真心ブラザーズ、東京スカパラダイスオーケスト、レキシなど総勢36人に及ぶ縁の深いゲスト・ミュージシャンたちと次々にセッションを繰り広げた5時間にわたる記念公演「堂島孝平活動20­周年記念公演 オールスター大感謝祭!」を成功させた彼が、アニバーサリー・イヤーの締めくくりを飾るべくニュー・アルバム『VERY YES』を完成させた。


これまで16枚のオリジナル・アルバムを発表してきた堂島孝平。幅広い音楽的ボキャブラリーに裏打ちされたポップスを、アルバムごと楽曲ごとにスタイルを変えながら呈示し続けてきた彼だが、そのソングライター/アレンジャーとしての懐の深さは、時に摑みどころのない印象を与えることもあった。

「何やってるんだろうあの人は?って感じで、スタイルが一貫してないように見られがちだし聴かれがちなんですよね。あと、書く曲の振り幅が広いともよく言われる。それはルーツ・ミュージックを基本にしたり、ある種のマナーを守りながら曲作りをするということを念頭に置いてないからかもしれないですね。たとえばアニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の主題歌になった〈葛飾ラプソディー〉のようにブルーグラス調の曲を書いてアレンジしている人間が、KinKi Kidsの〈カナシミブルー〉を作ってたり、『トリビアの泉』の音楽を担当してるのって変だと思いますもん(笑)」

そこにはシンガー・ソングライターとして自分の歌を全うする喜びとは別軸として、堂島孝平といういち音楽家として味わえる喜びを自らリミットをかけることなくとことんまで追究しようという強い想いもあるのだろう。自我を見つめるシンガー・ソングライターとしての眼差しと、大衆の心を動かしたいというポップ・ミュージシャンとしての矜持、さらにエンタテイナーとしての底知れぬ資質が絶妙に相まって、「堂島孝平」という他にはあまり類をみないタイプの表現者が形作られていった。

「今回のアルバムを作って初めて思ったことなんですけど、もはやどんな音楽でもいいんですよ。僕は、他の誰も書いてない歌を発明したり、こんな歌があったらいいなっていうところにワクワクして曲を書くタイプなんです。堂島孝平っていう人間がそれを発明して歌詞を書いて歌っていれば、自分の中ではわりとそれで完結してる。だけど、それを聴いてもらうには通訳のようにアレンジっていうものが必要になってくるから、その時代時代を生きてる人たちにどういう投げかけ方をすれば聴いてもらえるか?というところを常に考える。若い時はもっと個人的な好みのほうにこだわってやっていたんですけど、今はそこにまったく隔たりがないんです。だから『これは自分ぽくないな』ってことがあまりなくなってきてる。アレンジメントや楽曲ごとに用いるスタイルを、その都度これだって思って選びながら作っているのは、フレッシュであり続けたいっていう気持ちもすごくあるし、だからこそいろいろと発展し続けられたんだと思います」

セルフ・プロデュースによって制作された約2年ぶりの最新作『VERY YES』は、渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)、sugarbeansという堂島孝平のライブも支える二人のキーボーディストを共同アレンジャーとして迎え、4リズムにホーン・セクション、女性コーラスを含めた編成で録音が進められた。

「(バンド編成は)ラスベガスあたりのホテルでポール・アンカがショーをやるような、その時の箱バンっぽい感じをイメージして。ホテルのショー・バンドって、おじいちゃんから子供まで楽しめるけど、その間口の広さをサウンド・プロダクションの基本としたかった。ビッグバンドより少し小さい、ちょっとミュージカル・スタイルなバンドを従えて、僕はハンドマイクを持って歌ってるみたいなね」

70年代ソウルを彷彿させるヒューマンタッチのサウンドが生み出すメロウかつファンキーなグルーヴにのせて、日々の暮らしにそっと咲く些細な幸せを丁寧に拾い上げて、愛おしく育てあげていくような歌が並ぶ。

「今回の作品をひとことで言えば、楽しく暮らしたいなって思ってるだけのアルバムです(笑)。でも、そういうことって、これまでに歌えてたようで歌えてなかった。身近なことを明るくハッピーに歌えるようになったっていうのは、何気ないようで自分としては結構デカいなって思ったんです。自分も若い時は音楽によるショックの残し方として、ドラマチックであればあるほどいいと思ってたし、普通に考えればそれは今でも有効なやり方だと思うんです。だけど、それこそ吾妻光良さんの歌詞じゃないけど、いろんなことが歌になる。あるいは大瀧詠一さんからの影響も大きいんですけど、大瀧さんのようにユーモアを持ちながらニッチな歌を作って、作り手も聴き手もハッピーになっちゃう。そこに案外需要もあったりもするんですよね」

DJKH2015年アー写
「僕が人間として思ってることがあって……人の命って限られてるし、自分にもあとどれだけ時間があるのかなってふと考えることがあるんですけど、若い時って楽しいことも『めっちゃ楽しい!』でよかったと思うんです。喜びの中でもでっかい喜びを欲しがった。だけど今は、大きな喜びはそんなに必要ないから、『朝・昼・晩と今日は3食ともすげえ美味かった』とか些細な喜びがたくさんあったほうが、生きるという上で見ると喜びの持久力が高いんじゃないかなって思うんです。小さな喜びを毎日見つけれらたら、トータルでいうと、ずっと楽しい。そういう想いが今回歌に出来たんじゃないかと思います。ざっくりとした言い方をすれば『堂島孝平、愛を歌う』みたいなね」

『愛を歌う』といっても大げさなものじゃなく、小粋にラブソングを歌い上げていくような──その軽やかさは、堂島自身も敬愛する坂本九や堺正章といった先達からの影響も感じさせる。

「〈正しいことよりぬくもりが好き〉っていう自分の中の感覚を、どうにかしてそれをうまく音楽にしたかったんです。明るいってことを前面に打ち出すと軽く見られるっていうリスクがずっとついて回るもけど、今回のアルバムを作ってわかったのは、明るいってことには重みがあるなって思ったんです。ブライトなものっていつでもそこにありそうに思えるし、陰影が激しいと人はありがたみを覚える。でも、常に楽しそうにあるものって、ずっとそこにあればあるほど貴重なものなんだぞってことに気づけたんですね。それこそ九ちゃんとかはそういう典型だと思うし。〈幸せなら手をたたこう〉って朗らかに歌える人ですからね。あの軽やかさは、本当にすごいと思いますしね」

現在39歳、これから成熟の時を迎えようという堂島孝平。年齢を重ねていくことで、シンガー・ソングライターとしての意識も変わっていったという。

「自分がシンガー・ソングライターである以上、腹を割ってどんどん歌を作っていくことがすごく大切だなって。それも34、5歳ぐらいから意識しはじめて。早い話、モテるための歌なんていらなくなってくるじゃないですか。カッコつけない歌をちゃんと歌えて、自分が40歳以上、50歳以上になって人前に立って歌う時に、その人から滲み出てる歌になってないと、シンガー・ソングライターとしては負けだと思うのでね。自分が多少ダサくたって、誰かに迷惑がかかるわけじゃない、もし失敗しても自分でケツを拭けばいいと思えるようになったんです。かっこよかろうがダサかろうが、そういう歌がないんなら作ったほうがいい。もっと言うと、これ俺じゃなくても誰かがやったほうがいいと思いながら作ってる節があるんですよ。今作の中にも、これはまだ誰も歌ってないし、こういうことを歌っていってもよくない?っていう呈示はいっぱい詰め込んであります」

堂島孝平「PERFECT LOVE」 MV


「自分が年を取っていくこととか、人生には思い通りにならないことだらけだっていう大前提から歌詞をすべて書きはじめて。楽しい方がいいに決まってるけど、思い通りにならないってことや何か足りない、うまくいかない、わかってるけどできないっていう縮図の中でみんな生きてるわけで。だけど日々の暮らしで生まれるほころびも、君となら楽しめるかな……みたいな。うまくいってないことを良しとしようぜという勇気みたいなものを、自分の中でも持ちながら作っていった。それが『VERY YES』というアルバムなんです」

20周年を迎えた彼が華々しいアニバーサリーイヤーの締めくくりに作りあげたのは、必要以上に華やかな飾り付けもなければ、フィクションやファンタジーで包み込んだ音楽でもない、あたたかな眼差しと肌触りに満ち溢れたシンプルでナチュラルなラブソング。堂島孝平は、次なる20年で歌っていきたい何かを見つけたようだ。


堂島孝平『VERY YES』

堂島孝平
『VERY YES』

(インペリアルレコード)


堂島孝平 official website
http://djkh.jp/


堂島孝平『VERY YES』初回限定盤 DVD トレーラー
*「VERY YES」初回限定盤 特典DVDは、2015年2月22日に中野サンプラザで開催された「堂島孝平活動20­周年記念公演 オールスター大感謝祭!」のライブ映像をダイジェストで収録している(収録時間約50分)。



Live Schedule
【DJKH 20th】DJKH×A.C.E. TOUR 2016『君が、来る』

1月15日(金)北海道・札幌 KRAPS HALL
1月23日(土)愛知・名古屋 ell.FITS ALL
2月7日(日)宮城・仙台 hook
2月10日(水)広島・広島 BACK BEAT
2月12日(金)福岡・福岡 Drum Son
2月21日(日)東京・恵比寿LIQUIDROOM

詳細は堂島孝平official websiteをご確認ください。

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