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それは9月3日
その日のことはいつだって忘れない
ああ、忘れやしないさ
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セプテンバーとリメンバーが韻を踏むせいか、9月を思い返す歌は多い。テンプテイションズが1973年にグラミーの最優秀R&Bボーカル部門と最優秀R&Bパフォーマンス部門をダブル受賞した「パパ・ワズ・ア・ローリング・ストーン」でも、9月が登場する。
だが、この9月3日は、忌まわしい日だ。
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だって、その日、俺の親父が死んだのさ
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そして歌詞は、主人公が父親の顔を見ずに死んでいったことを説明する。
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一度も顔を見たことがない
親父についてはいい噂を聞いたことがない
ママ、お願いだから本当のことを話してよ
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懇願する主人公。
だが、母親は頭を振り、こう言うのである。
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パパは*ローリング・ストーンだった
帽子を置く場所が、あの人の家
死んじまった時だって
遺してくれたのは、*アローンだけさ
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ローリング・ストーンは転がる石。
ほとんど家にはいつかない根無し草だというわけだ。
最後のアローンは寂しさとも取れるし、ア・ローンなら借金である。
そこからはテンプスが誇るシンガーたちが、あたかも次々と兄弟が母親を問い詰めるように、代わる代わる歌うのだ。
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ねえ、ママ
パパは1日も働いたことがないって
本当なの?
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パパには外に3人子供がいて
それぞれ別の違う奥さんがいたって悪い噂なんて
嘘だよね
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デニス・エドワーズ、リチャード・ストリート、デーモン・ハリス、メルヴィン・フランクリン。彼らの歌う様は、ミュージカルを観ているようである。
この曲を書き、プロデュースしたのはノーマン・ホイットフィールド。モータウン・サウンドのクリエイターであった彼は、テンプスの作品の他に、マーヴィン・ゲイの「悲しい噂」や、エドウィン・スターの「黒い戦争」なども手がけている。
「彼は、ひとつのコードで、あれだけの美しいメロディーを作り出す。他の人間には想像もできないようなね」
モータウンの創業者、ベリー・ゴーディ・ジュニアは、ホイットフィールドについて語っている。
「彼はテンプスの5人と仕事をしたが、どの曲で誰に歌わせたらいいかってことをわかってたんだ。だからあの曲の中でそれを使い分けてみせたのさ」
2008年の9月16日。
ノーマン・ホイットフィールドはこの世を去っている。
思い出の9月。
テンプスとホイットフィールドの偉業を聴き直してみてはどうだろうか。