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デビルズ・ファイヤー〜“悪魔の音楽”と言われたBLUESの魔力とは?

2024.02.25

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『デビルズ・ファイヤー』(Warming By The Devil’s Fire/2003/チャールズ・バーネット監督)


2003年。アメリカでは「BLUES生誕100年」と称して、CD・書籍・番組・ラジオ・コンサートといったメディアミックスを通じて“魂の音楽”を伝えるプロジェクトが展開された。中でも音楽ドキュメンタリー『THE BLUES』は、総勢7名の映画監督が様々な角度から“魂の音楽”をフィルムに収めて大きな話題を呼んだ。

今回紹介するのは『デビルズ・ファイヤー』(Warming By The Devil’s Fire/チャールズ・バーネット監督)。“悪魔の炎で暖を取る”はシリーズ唯一のドラマ形式で、ミシシッピへやって来た11歳の少年がブルーズに取り憑かれた叔父と過ごす日々を通じて、ブルーズの真髄や黒人のアイデンティティに目覚めていくというもの。聖と俗の関係がこの作品のテーマ。

「ブルーズはあらゆる感情をカバーする。人がブルーズを聴くのは、それが本能との折り合いをつけさせてくれるからだ」と、ミシシッピで少年時代を過ごした監督のチャールズ・バーネットは言う。戦前ブルーズを取り巻く環境は、南部の人種差別、刑務所の強制労働、農園での重労働、搾取、貧困、暴力、犯罪、殺人、セックス、愛の喪失、放浪、死などが交錯する。

例えば、あのロバート・ジョンソンにギターを教えたことでも知られる伝説のミシシッピ・デルタ・ブルーズマン、サン・ハウスは、こんなことを言っている。

ブルーズは人が思うようなオモチャじゃない。最近の若い奴らは何でも素材にしてブルーズを作る。何とかブルーズとか。違うんだ。ブルーズは一つしかない。それが生まれるのは恋する男女の間だけだ。二人が愛し合っているはずの状態で、どちらか一人がもう一人を振る。愛を裏切る。何があってもおかしくない。心の問題だ。それがブルーズだ。人は孤独な気分からブルーズになる。一人寂しく腰を下ろし、頭を抱えて涙を流す。そんな荒んだ心がブルーズを生むんだ。


物語の舞台は1950年代。ブルーズは悪魔の音楽。最初は母親の教えに忠実でありながらも、叔父に連れられてその目でいろんな風景や人物──ミシシッピ川、叔父の女たち、盲目のブルーズマン、酒場、深夜の十字路、息子に会いに刑務所まで長い道のりを歩く老人──と接していくうちに、ブルーズに目覚めていく少年の姿と眼差しが忘れられない。

ブルーズに関する物語を執筆しているという叔父の汚い部屋は、ブルーズマンの切り抜きやSP盤で埋め尽くされていて、戦前のカントリー・ブルーズやクラシック・ブルーズのレコードが朝も夜も聴こえてくる。それはブルーズの歴史そのものだ。

1903年。黒人知識階級のW.C.ハンディは、ミシシッピ・デルタの小さな町の駅のプラットフォームで、みすぼらしい身なりの男がポケットナイフを滑らせながらギターを弾き歌う姿を見て衝撃を受けた。ブルーズは1890年代には既に完成していて、ミシシッピ・デルタでは独自の形態に進化を遂げていたのだ。こうして本物のブルーズを“目撃”したハンディは、後に楽譜にして次々と出版していき、アメリカ中にブルーズを広める役割を果たした。

ブルーズが録音レコードとして初めて世に出たのは、1920年。マミー・スミスの「クレイジー・ブルーズ」がヒットする。これを機にレコード会社は黒人の女性シンガーたちと契約。その一人にマ・レイニーやベッシー・スミスもいた。中でも「ブルーズの女帝」という称号を得ることになるベッシーは、酷い男に引っ掛かった女の心情などを歌ってスターとなり、1923年の初録音から10年間で160曲以上を吹き込んだ。ピリー・ホリデイやジャニス・ジョプリンにつながる源流だ。1937年事故死。

クラシック・ブルーズがエンターテインメント性やジャズ色が強く、女性の独占状態で都会的だったのに対し、カントリー・ブルーズは男性中心でダウンホーム感覚(南部の感覚)が強烈だった。1920年代半ばには、テキサス出身のブラインド・レモン・ジェファースンやジョージア出身のブラインド・ブレイクらが録音を経験するが、ミシシッピ・デルタ出身のブルーズマンとしてはチャーリー・パットン、サン・ハウス、スキップ・ジェイムズ、トミー・ジョンソンらの名を忘れてはならない。1926〜31年の時期は多くのカントリー・ブルーズが記録された。

1930年代を襲った大恐慌時代も、ブルーズは強く進化し続けた。ビッグ・ビル・ブルーンジーやリロイ・カーなどのアーバンな感覚を持ったシティ・ブルーズ・サウンド。そして放浪者ロバート・ジョンソンの歴史的録音が行われたのもこの時期。1940年代になると、エレキ・ギターが発達してTボーン・ウォーカーが登場。さらにカントリー・ブルーズを電化したマディ・ウォーターズがシカゴで親玉となっていく……。なお、ブルーズの歴史については、書籍『ザ・ブルース』(マーティン・スコセッシ)に収録されている「ブルースの世紀」(ロバート・サンテリ)が詳しい。

『デビルズ・ファイヤー』には貴重な映像が満載。ソングスターのミシシッピー・ジョン・ハート、サン・ハウス、メンフィス・ジャグ・バンド、ベッシー・スミス、シスター・ロゼッタ・サープ、Tボーン・ウォーカー、ライトニン・ホプキンス、サニー・ボーイ・ウィリアムスン2世、ウィリー・ディクソン、ジョン・リー・フッカーらが“動いて”いる。

ライトニン・ホプキンスの「ロンサム・ロード」


クラシック・ブルーズの女帝ベッシー・スミスの貴重な映像

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*参考・引用/『ザ・ブルース』(マーティン・スコセッシ監修/ピーター・ギュラルニック他編/奥田祐士訳/白夜書房)
*このコラムは2017年1月に公開されたものを更新しました。

(『THE BLUES』シリーズはこちらでお読みください)
フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』(Feel Like Going Home/マーティン・スコセッシ監督)
ソウル・オブ・マン』(The Soul Of A Man/ヴィム・ヴェンダーズ監督)
『ロード・トゥ・メンフィス』(The Road To Memphis/リチャード・ピアース監督)
『デビルズ・ファイヤー』(Warming By The Devil’s Fire/チャールズ・バーネット監督)
『ゴッドファーザー&サン』(The Godfathers And Sons/マーク・レヴィン監督)
『レッド、ホワイト&ブルース』(Red, White & Blues/マイク・フィギス監督)
『ピアノ・ブルース』(Piano Blues/クリント・イーストウッド監督)

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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