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心と体を熱くする【魅惑のソウル・ヴォーカル②】テディ・ペンダーグラス(前編)〜最もセクシーと言われた男

2016.12.12

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華やかなイルミネーションに彩られた夜の街は、人々を少しロマンティックな気分にさせる。
そして冷たい木枯らしが吹けば、恋人たちの距離もぐっと近づく。
そんな季節に聴きたくなるのが、テディ・ペンダーグラスのヴォーカルだ。
パーティー・シーズンを楽しむ大人たちの心と体を熱くしてくれる、彼のセクシーでソウルフルなヴォーカルの魅力に迫ってみたい。


マーヴィン・ゲイに続いて、ソウル界で最もセクシーな男と言われたテディ・ペンダーグラス。甘く繊細でなめらかなマーヴィン・ゲイのヴォーカルに対して、テディの声はどちらかというと、ざらっとしてゴツゴツとした野性的な印象だ。
それなのにセクシーと言われる所以は、ルックスだけでなく抑制の効いたシャウトにあるのかもしれない。
低いバリトンから巧みにコントロールされたシャウトは、炎で例えてみるならば、赤く燃え盛る炎というよりは、強い威力で鋭く燃える青白い炎のようだ。
だから、どんなにきわどくセクシュアルな歌詞も、テディが歌うと都会的な大人の雰囲気が漂うところが、セクシーと言われる所以なのかもしれない。

そんな魅力に溢れているテディ・ペンダーグラスの代表曲のひとつが、1980年に発表されたアルバム『TP』に収録の「Love T.K.O.」だ。日本でも山下達郎がカヴァーするなど、多くのミュージシャンにカヴァーされる人気曲だ。タイトルが示す通り、愛のテクニカル・ノックアウトに打ち負かされ、恋愛に翻弄される切ない心情を歌うラヴ・ソングは、恋人たちの悲しみを包みこむような温かさと、クールなセンスが光るメロウな仕上がりになっている。

「Love T.K.O.」



1979年に発表されたアルバム『Teddy』に収録の「Do Me」は、テレビのバラエティ番組「8時だヨ!全員集合」の中で行われていた加藤茶と志村けんの「ヒゲダンス」のテーマの元になった曲として有名だ。ソウル・ミュージックが好きだった志村けんのアイデアにより、この曲のベース・ラインを元にして作られたと言われている。
この曲も歌詞の内容はきわどいながらも、パーティーにぴったりの軽やかでノリの良いリズムに、テディの熱いヴォーカルが炸裂する。

「Do Me」


1950年にフィラデルフィアで生まれたテディ・ペンダーグラスは、信仰心に厚い家庭に育ち、聖職者を志して教会で歌うなどしていたが、ある時フィラデルフィアにおけるブラック・ミュージックの拠点、アップタウン・シアターで見たジャッキー・ウィルソンに魅せられ、ポピュラー・ミュージックのステージに立ちたいと思うようになる。
最初はドラマーとしてキャリアをスタートさせ、ハロルド・メルヴィンのグループに入らないかと誘われ加入した。しかし、テディの歌の力を目の当たりにしたハロルドは、彼をドラマーの座からグループのリード・シンガーに抜擢する。そうして、テディ・ペンダーグラスがリード・シンガーとなったハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツは、次第にヒット曲を飛ばし脚光を浴びることとなった。
その代表曲とも言えるのが、英国のシンプリー・レッドを始め、多くのミュージシャンにカヴァーされる名曲「If You Don’t Know Me By Now」だ。

「If You Don’t Know Me By Now」


(ケニー・ギャンブルとレオン・ハフの二人によって1971年に設立されたフィラデルフィア・インターナショナル・レコード(PIR)で、オージェイズやビリー・ポールなどと並んで代表的なアーティストだったのが、このハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツだ。
ギャンブル&ハフの名は、アレンジャーでプロデューサーのトム・ベルらとともに、スウィートで洗練されたフィリー・ソウルを生み出した立役者としても覚えておきたい。)

しかしグループの人気と共に、テディの名前がハロルド・メルヴィンと勘違いされることも多くあったという。
1976年に同じくPIRからソロ・デヴューした後も、アルバムがミリオン・セラーを記録するなどフィリー・ソウルの代表的なシンガーとして人気は不動のものとなり、また、最もセクシーな男の称号も欲しいままにする。
人気絶頂期にはレディース・オンリーのコンサートも開催し、客席からは女性の下着が飛び交ったという逸話もあるほどだ。

アルバム『Teddy』に収録されている、まさに男女の夜のシーンを歌った歌「Turn Off The Lights」も、低音とシャウトを巧みにコントロールして、聴く者を甘美な大人の世界へぐいぐいと引き込んでいく。野性味あふれるテディ・ペンダーグラスならではの熱くセクシャルなステージの、まさに人気絶頂期の1982年にロンドンで行われたライブ映像が記録されている。

「Turn Off The Lights (live)」 


しかし、このライブから約1ヶ月を過ぎた頃に悲劇は起こるのだった。

(後編に続く)


Teddy Pendergrass『Teddy』
Philadelphia International Records

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