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ケイティ・ペリーの魅力〜今旬ポップミュージックの新女王

2018.03.27

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2010年代に入って、欧米では新しく登場したポップスターがチャートやソーシャルメディアで話題をふりまいている。中でも歌姫と呼ばれる女性シンガーの人気は凄まじく、歌やパフォーマンスだけでなく、メイクやファッションから恋愛やゴシップに至るまで、ティーンや20代を中心とする若い世代に絶大な影響力を持ち続ける。

彼女たちは単なる操り人形ではない。自らをしっかりとプロデュースしつつ、周囲のサポートと信頼を得ながら厳しいエンターテインメント業界で自分の居場所を築いてきた。そして驚くべき収入も兼ね備えている。先日、来日公演を果たしたレディー・ガガはここ5年で約3億2000万ドル。カントリー界のアイドル、テイラー・スウィフトも5年で約2億7000万ドルを稼ぐ。まだ20歳になったばかりのマイリー・サイラスには40億円近い年収がある。

この影響力や収入を踏まえて現在のポップミュージックの女王を一人選ぶとすれば、それは紛れもなくケイティ・ペリーに間違いないだろう。

彼女のキャラクターや世界観は人をとてもハッピーにさせてくれる。コンサートには老若男女・人種を問わないファンが詰めかける。彼女たちの言葉を借りるなら「凄い衝撃。ハートに矢が刺さったみたい」な気持ちになってしまう。また、ツイッターのフォロワー数はミュージシャンの中で最も多く、5246万人以上でギネス記録に認定された。

決して完璧を演じようとしないありのままの姿も魅力的で好感を抱く。ポップスターだって我々と同じ悩みや不安を抱えながら生きているという当たり前のことを、彼女は包み隠さずに伝えようとする。自ら作る楽曲も親しみやすく楽しめるメロディが満載で、ダンスが苦手というのもまたいい。

レディー・ガガがどちらかと言えばミステリアスで夜の雰囲気を漂わているなら、ケイティにはひたすらポップで日曜の晴れた昼下がりをイメージする。それはまるで1980年代のマドンナとシンディ・ローパーの関係のようだ。マドンナはクラブのダンスフロアにお似合いだったが、シンディがハイスクールプロムの永遠の主役だったように。

マドンナやシンディ、ガガの例に漏れず、ケイティもデビューやブレイクまでには紆余曲折の時間と下積みを要した。

1984年10月にカリフォルニア州のサンタバーバラで生まれた彼女は、牧師の両親のもと、厳格な環境で育てられた。教会のゴスペルの影響もあって幼い頃から音楽に目覚めた。わずか15歳でゴスペルのレコードを録音し、2001年にはケイト・ハドソン名義でアルバムもリリースした。

ある日、アラニス・モリセットの考えや感情をむき出しにした歌を聴いて衝撃を受け、等身大の自分になることを決意。自立心と経験を求めてLAへ旅立つ。そしてアラニスのプロデューサーだったグレン・バラードに飛び込みで曲を売り込んで認められた。

しかし、契約したレコード会社はケイティを第2のブリトニー・スピアーズ、第2のアヴリル・ラヴィーンにするべくマーケティング。囚われの身になった彼女はレコードを出せないまま、キズモノ扱いされていく。困窮する生活の中で自分を見失った時期もあったというが、それでも少ないファンに支えられながら曲だけは作り続けた。

そして現在のキャピトルに移籍して状況は変わり始める。2008年6月、23歳の時にポップアルバム第1弾『One of the Boys』をリリース。シングル「I Kissed a Girl」が全米1位になり、彼女の名は一躍全米に知れ渡った。

続いて2010年にリリースされた『‪Teenage Dream』で本格的なブレイクを果たす。「眠りながら綿菓子の雲の夢を見た」ことから発想されたこのアルバムからは「California Gurls」「Teenage Dream」「Firework」「E.T.」「Last Friday Night (T.G.I.F.)」の5曲が立て続けにチャートで1位を記録。

あの「キング・オブ・ポップ」ことマイケル・ジャクソンが『Bad』で打ち立てた同アルバムから5曲のナンバー1ソング誕生という偉業と並んだ(このアルバムはコンプートバージョンも発売され、新たに収録された「Part of Me」もナンバー1になった)。さらに2013年にリリースした『Prism』からは、「Roar」と「Dark Horse」が1位になっている。

アメリカでは1999年をピークにCDの売り上げが下降線を描き、iTunesなどダウンロード流通の普及によってアルバムが売れずに単曲買いが主流になった。いわゆるデジタルシングルの売り上げを見ても、ケイティは7200万曲DLで2位のリアーナの5200万曲に圧倒的な差をつけてすべてのアーティストの中でトップに立つ。ちなみに先の『Teenage Dream』は全米で200万枚、世界で600万枚というセールスだが、もし時代が早ければとんでもない売り上げを樹立していたかもしれない。

2011年に行われた1年間に及ぶ『カリフォルニア・ドリームズ・ツアー』を追ったドキュメンタリー映画『パート・オブ・ミー』(20102年公開)には、ケイティ・ペリーらしい切なくて感動的な場面がある。

ステージコンセプトは「オズの魔法使い」と「不思議の国のアリス」というファンタジーの世界。それはキラキラの衣装を着て大勢のファンと一緒に歌うことに憧れた少女の頃の夢の実現だった。2010年後半に俳優のラッセル・ブランドと結婚したばかりの彼女は、幸せの絶頂にいるばずたった。

ツアーも200日を超えてくると、疲労が彼女を襲う。それは夫ラッセルと会えない日々が続いていることが原因だった。まさに破局寸前。それでもあの頃人知れず抱いた偉大な夢を忘れずに、ステージに立って笑顔でファンサービスするケイティ。この映画には極限の精神状態の中で、泣いてふさぎ込む姿もリアルに映し出されている。すれ違った二人は離婚した。

正直に話すわ。私はロマンチストだからお伽噺を信じてる。大きな夢でも強く信じていれば、それは現実となる。そういうスタイルでやってきた。キャリアも私生活も失敗しないように全力を尽くしたけど、うまくいかなかった。最高の旅にも悪いことは起こるもの。たくさん学んだわ。


バラードナンバー「The One That Got Away」には、死別するまで愛を貫いたカントリー音楽の伝説ジョニー・キャッシュとジューン・カーター夫妻の名前が出てくるが、ステージ上でケイティが「永遠と言うのは簡単だけど、実現するのは難しい」と零した後、涙ながらに歌っているのが印象的だった。

*このコラムは2014年8月29日に初回公開されたものに、一部加筆をしました。


2015年2月1日、第49回スーパーボウルのハーフタイムショーに登場したケイティ・ペリー。ゲストにレニー・クラヴィッツ、ミッシー・エリオットの姿も。

(TAP the POPの関連コラム)
今年はケイティ・ペリーが登場!!〜NFLスーパーボウルとハーフタイムショーの伝説

ブラジルのコンサートで「The One That Got Away」を歌うケイティ。大観衆から「ケイティ、愛してるよ!」の歓声で思わず涙する。辛い時期だった。

「The One That Got Away」の公式MV。ケイティが老け役にも挑戦。

これぞケイティ。新時代のガールズアンセム「Last Friday Night (T.G.I.F.)」のステージ。シンディ・ローパーの「Girls Just Want to Have Fun」に匹敵する。

最新トップ10ヒット「Chained To The Rhythm」のMV

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『‪Teenage Dream』

(2010)


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『Prism』

(2013)


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映画『ケイティ・ペリーのパート・オブ・ミー』

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