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「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」で結実した二人の才能~ミック・ジャガーとキース・リチャーズ

2015.11.20

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熱心なR&Bファンから出発したキース・リチャーズは、まずギターをコピーして自分のものにすることから音楽の道に入った。
だから表現者としての自覚が芽生え始めたのはデビューした後のことで、ソングライティングに取り組んでからだという。

キースは1964年の7月頃と思われるインタビューでこう語っている。

もう1年ほどミックと共同で曲作りをしている。そんなに大それたことをしようというつもりはなかったよ。2人と曲を書くのが好きだから、何となく一緒にやり始めたという感じ。
実際、ジーン・ピットニーが「That Girl Belongs To Yesterday」をレコーディングするまで俺たちが曲を作っているなんて、ほとんど誰も知らなかった。
俺たちにとってジーンはあの曲をヒットさせてくれた大恩人だよ。


日本だけで「ルイジアナ・ママ(Louisiana Mama)」がヒットしたジーン・ピットニーは、1964年にイギリスでツアーを行った時にローリング・ストーンズのマネージャー、アンドリュー・ルーグ・オールダムに声をかけられてストーンズのレコーディングに呼ばれた。

その縁もあってミックとキースが作っていた曲を、アンドリューのプロデュースでレコーディングし、UKチャートで3月7日に最高7位のヒットになった。だが、全米チャートでは49位と、今ひとつ火がつかなかった。

キースはこうも語っていた。

「As Tears Goes By」はマリアンヌ・フェイスフルという新人の女性歌手がレコーディングした。ストーンズで出した「Tell Me」はアメリカでシングルカットされて、評判いいみたいだね。


事実、アメリカで6月に発売された「テル・ミー」はヒット・チャートの24位まで上昇、TOP40に入るヒットになった。

テル・ミー

ミックとキースのふたりで始めたソングライティングは、そもそもはマネージャーのアンドリューから強要されて始めたというも面もあった。

ストーンズの売り出しに力を入れていたアンドリューは、音楽業界のことを詳しく知るようになるにつれて、マネージメントと同等かそれ以上に、著作権に関わるビジネスが大きな利益を生み出すことに気づいた。
人気が出てきたストーンズの曲をメンバー自身が生み出せるようになれば、大きな収入が得られるのだからトライしてみない手はない。

アンドリューはミックとキースに「自給自作体制ってやつを作り上げたほうがいいんじゃないかな」と提案する。
そして「曲が出来上がるまで出てくるなと」と言われて、キッチンに閉じ込められたふたりが初めて作った曲が「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ(As Tears Goes By)」だったというエピソードは、有名な話として知られている。


マリアンヌ・フェイスフルのデビュー曲に選ばれた「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」は、1964年8月に発売されるとUKチャートでは8月15日に最高9位のヒットとなった。

マリアンヌ・フェイスフルはここからポップアイドルとしてスターの座に押し上げられていく。
清楚な歌声とロリータ的な美しさで3曲続けてヒットを出して人気を得たマリアンヌは、ミック・ジャガーの恋人としても有名になった。

やがてジャン・リュック・ゴダール監督の映画『メイド・イン・U.S.A』に出演して、女優の道にも進むことになる。

ストーンズが「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」をセルフ・カヴァーしたのは1965年になってからのことだが、レコーディングに参加したのはアコースティック・ギターのキースとヴォーカルのミックだけ、それに弦楽四重奏団が加わった。

アズ・ティアーズ・ゴー・バイ

アメリカでシングルのA面として1965年12月にリリースされた「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」は、翌年の1月22日にビルボードで6位になり、初めてTop10内に入るヒットを記録した。
キースとミックのメロディと歌詞が、アメリカの少年少女たちに広く受け入れられたのだ。

イギリスでは1965年12月に出たセカンド・アルバム『ディッセンバーズ・チルドレン』に収録されたが、その後1966年2月4日に「19回目の神経衰弱」のカップリング曲としてシングル・リースされた。

「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」で結実した二人の才能は、そこから一気に開花していくことになる。
そんな記念すべき曲をストーンズは21世紀になっても、初期の瑞々しさを忘れずにうたい続けている。

金持ちだとしても 全てを買える訳じゃない
ただ子供達の歌が聴きたい
子供達の遊ぶ声だけが聞こえる
雨が降り 地面を濡らす
私は座って 眺める
涙があふれる


The Rolling Stones – As Tears Go By (Shine a Light 2008)



オリジナル・シンガーのマリアンヌもまた10代の頃の可憐さとはまったく異なる、円熟した味わいの「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」を今でも聴かせてくれている。

Marianne Faithfull – As Tears Go By


(注)キース・リチャーズの発言はショーン イーガン 編「キース・リチャーズ、かく語りき」(音楽専科社)と、 「THE ROLLING STONES」 (rockin’on BOOKS) からの引用です。

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