1985年の7月13日に開催された20世紀最大の慈善コンサート、ライヴエイド。
その会場の1つであるJFKスタジアムに出演していたボブ・ディランが、ステージで発した一言によって事は始まるのだった。
「ここアメリカにいる農家の人たちに対しても、(ライヴエイドと)同じことができたら素晴らしいと思わないか?」
当時、アメリカの農業は深刻な不況に見舞われていた。
その主な要因は、「強いアメリカ」を打ち出したレーガン政権の政策によって、急速に進んだドル高にあった。これにより農産物の輸出量は激減して大量の在庫が発生し、農作物の価格は一気に下落、その結果、多くの農家が借金を抱えていたのだ。農場は次々と売りに出され、アメリカ全体では減少しつつあった自殺率も、農業経営者に限れば増加していた。
その問題を重く捉えていたディランは、寄付金でそうした農家の借金を何とかできないかという意識から、ステージで先のような発言をしたのだった。
こうしたディランの考えに賛同して動いたのが、ウィリー・ネルソン、ニール・ヤング、ジョン・メレンキャンプだ。
ニールはライヴエイドにこそ参加したが、それまで慈善コンサートに対しては消極的な立場にいた。慈善コンサートが本当に問題の解決に向けてプラスになっているのか、集まったお金は正しく使われているのか、主催者や参加者の自己満足に終わっている可能性はないか、もしそうならそこに自分の音楽は持ち込みたくないと感じていた。
しかし、ライヴエイド後にディランのいるホテルの部屋に向かったニールは、ディランから直接話を聞いて、アメリカの農家のために何かしたい、そのために動くことを決意するのだった。
「家族と一緒にテーブルについて、呑気に『とうもろこしをこっちへちょうだい』なんて言っている場合じゃない。みんなこの国の農場で何が起こっているのか、考えるべきなんだよ」
ライヴエイドから2ヶ月余りが過ぎた1985年9月22日、ファームエイドはイリノイ州のシャンペーンで開催された。
主催側であるニール・ヤング、ウィリー・ネルソン、ジョン・メレンキャンプのほかにボブ・ディラン、ビリー・ジョエル、ボニー・レイット、ルー・リード、ジョン・フォガティ、B.B.キング、ロレッタ・リン、ジョニー・キャッシュ、ロイ・オービソン、トム・ペティなど、数多くのミュージシャンが3人に賛同して集まった。
会場には8万人が来場して700万ドル以上もの義援金が集まり、そのお金は農場のローンに苦しむ人たちの援助などに使われた。。
しかしこれで問題が解決したわけではなく、3人もそのことは重々承知していた。
というのも開催に向けて準備を進めているとき、ウィリーやニールは農家の人たちと直接話し合っていた。そして問題の深刻さ、つまり農家の借金を返済しただけでは根本的な解決にはならないことを、すでに認識していたのだ。農業を取り巻く問題は不況による借金だけではなかった。
だからこそ、彼らはその後もファームエイドを開催し続けている。
2017年。ニール・ヤングは70歳を超え、ウィリー・ネルソンに至っては84歳、最年少のジョン・メレンキャンプすら65歳となったが、3人は今年も9月にファームエイドを開催してステージに上がる予定である。
アメリカの農業を取り巻くあらゆる問題が解決されるまで、彼らは歌い続けるつもりなのだろう。
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